6月20日「世界難民の日」に、国連大学ウ・タント国際会議場で、UNHCR /JPF共催シンポジウム「シリア危機:人として ‐ 分かちあう責任」が行なわれました。
まず、司会のジャパン・プラットフォーム柴田 裕子海外事業部長が開会の挨拶を行い、過去3回のシンポジウムを振りかえるとともに、第4回となる今回のシンポジウムの目的について説明しました。
第1部 基調講演:早稲田大学 最上 敏樹教授
第一部では早稲田大学の最上敏樹教授が「シリア問題と不寛容―寛容をいかに制度化するか―」というテーマで基調講演を行いました。
最上教授はまず「不寛容の国際問題」について、宗教、自然災害、飢饉など、これまで人の強制移動を生み出してきた要因について触れました。そして20世紀以降は人為的な難民の時代であり、その根底には政治的・宗教的不寛容があるという見方を説明されました。
そして不寛容、つまり共に生きることを拒否するという社会背景のもと「異なる他者を愛せよ」ではなく「生きる権利の承認」として寛容の思想が生まれた経緯について話されました。「寛容」は社会秩序の崩壊防止の為の思想であり、自国中心主義において「人間の存在価値が本質的に平等である」という人類にとって1つの目標とされてきたと説明しました。
またシリアについては、内戦が激化し、難民の問題が深刻化する一方で、戦闘停止への道筋が見えていないことや、国連安保理の責任、介入の形などについて触れられました。
「破綻国家」という言葉を用いて論じるよりも、まずは難民、避難民を生み出さないことの大切さ、「寛容を奪われた人々」に対する無条件の連帯についても話されました。
さらにMSF(国境なき医師団)の医療施設が複数回にわたって攻撃されるなど、武力紛争下の人々を保護するための最低限のルールである国際人道法が顧られていない現状を指摘しました。
最後にMSFが世界人道サミットをボイコットしたことに触れました。不参加の理由は「緊急課題への対処の姿勢に欠けること」「国家がなすべきことを矮小化し、広範な課題に逃避していること」などでした。『人道機関やNGOと比較して、国家が出来ることは非常に大きい。戦争をしている国家がもっと責任を持って問題と向き合うべき』というMSFの主張を真剣に受け止めるべきではないかという問題提起をされました。
第2部 難民保護・人道支援の活動報告
第2部では外務省、JICA、UNHCR、ジャパン・プラットフォーム、難民支援協会(JAR)から難民保護と人道支援に関する活動報告が行なわれました。
外務省緊急人道支援課 廣田 司課長
「 シリア危機に対する日本の人道的貢献」
国際協力機構 (JICA)
中東・欧州部 宮原 千絵次長
「 シリア危機に対するJICAの支援」
UNHCR小尾尚子副代表(法務):「 シリア難民危機における国際保護」
ジャパン・プラットフォーム 月岡 悠プログラム・コーディネーター: 「JPFによるシリア危機対応」
難民支援協会(JAR) 石川 えり代表理事: 「日本におけるシリア難民の保護・受入れ」
第3部: パネル・ディスカッション: 分かちあう責任 ? 創造的アプローチに向けて
第3部では、政府、国連、NGOのような援助組織ではない新しいアクターによる創造的な支援のあり方、関わり方について意見交換を行いました。
*パネリスト*
ファースト・リテイリング グループ執行役員 新田 幸弘さん
危険地報道を考えるジャーナリストの会 ジャーナリスト 土井 敏邦さん
J-FUNユース 事務局長 酒師 麻里さん
難民高等教育(RHEP)プログラムおよびユニクロ、インターンシップ卒業生 カディザ・べゴムさん
CWS Japan事務局長 小美野 剛さん
パネル・ディカッションと会場からの質疑応答の後、モデレーターをつとめた国連人道問題調整事務所 (OCHA)の渡部 正樹 神戸事務所長はシンポジウムを以下のように締めくくりました。
「今日の議論で改めて感じたことは、難民支援、人道支援を行う主体がいわゆる国連やNGOのような援助組織だけでは決してない、むしろそれだけではぜんぜん足りないということです。資金だけでなく、人材やノウハウといったリソースを持ち寄り、それぞれの得意分野を活かすことでより大きな成果が実現できる。民間企業、メディア、あるいは学生団体といった多様なアクターと実務的なパートナーシップを築いていくということが、人道支援の主流になりつつあると改めて感じました。その際は、ビジネスの論理、ジャーナリズムの役割、そして人道支援の原理原則のそれぞれをきちんと尊重して、創造的な関係を築いていくことも不可欠だと思いました。
最後に、難民支援、人道支援の輪をもっと広げて行くため、そうした取り組みの基盤をなす「寛容、連帯、多様性の尊重」という価値観自体をもっと共有し、広めていくことの大切さも今日あらためて感じました。そういう意味で、今この瞬間も紛争地で起こっているひどい状況を知り、怒り、声を上げていくことも大切だと感じました。そして、難民支援という責任を分かち合うため、私たち一人ひとりがそれぞれの家庭で、職場で、地域で、出来ることがまだまだたくさんあるように思えました。」
閉会の挨拶はダーク・へベカーUNHCR駐日代表が登壇し、シンポジウム参加者への深い感謝を述べました。
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シンポジウム当日、会場の国連大学2階の多目的スペースでは、中東・アフリカでの人道支援に長年携わってきた田邑恵子さんの写真展「食卓を囲むシリアの家族」、国際難民支援会(RIJ)による「難民コレクション」、ファーストリテイリングから皆さんへの感謝のメッセージボードが展示されました。
田邑恵子さんの写真展 『食卓を囲むシリアの家族』
難民キャンプのテント内で作る伝統料理、欧州への逃避行中の食事、新婚カップルの手料理など、新聞やテレビでは伝えられないシリアの人々の日常生活を垣間見ることが出来る写真が展示されました。
国際難民支援会(RIJ) 『難民コレクション』
タイ、ケニアやソマリアで難民から寄付された持ち物を展示されました。黒ずんだ歯ブラシ、壊れたラジオ、古びたサンダルなど・・。ひとつひとつに提供者の名前と年齢、出身地に加え、その品に込められた難民の物語が記されています。
ファーストリテイリング 『1000万着のHELP メッセージボード』
UNHCR とグローバルパートナーシップを結んでいるユニクロは、不要になったユニクロ、ジーユーの服を回収し難民に届ける活動をしています。1000万着の服を世界中の難民に届けるキャンペーン「1000万着のHELP」に参加してくれた皆さんへの感謝気持ちを込めたメッセージボードが展示されました。