3月上旬、超党派で構成されるUNHCR国会議員連盟(UNHCR議連)とUNHCR駐日事務所の共催で勉強会が行われました。
今回のテーマは「内戦下での大地震:シリア人道危機12年と日本」。紛争が始まって12年、今年2月の大地震によりさらなる困難に直面しているシリアの人道危機の現状とUNHCRの活動について情報共有を行い、日本からできることについて考えました。
冒頭にUNHCR 議連会長の逢沢一郎 衆議院議員があいさつを行い、「紛争が続くシリアで地震が発生し、被害が広がっているが、その状況が必ずしも世界にきちんと伝わっていないのではないかと感じる。国際社会の関心はウクライナに集まっているが、依然としてシリアの人々が深刻な人道危機に直面していること、地震からの復旧復興にも通常とは違う困難があることを、私たちはきちんと理解しなければならない」と強調しました。
続いて、UNHCR駐日代表の伊藤礼樹がこの12年のシリアの人道危機の変遷について発表を行いました。伊藤は直近に、UNHCRレバノン、シリアでUNHCRの代表を務め、シリア人道危機への対応に従事してきました。「武力衝突が全土に広まり、他国の介入なども影響して、物事がどんどん複雑になってきている」とし、現在も国外に660万人、国内で670万人が避難を強いられている状況下で、「国際社会がひとつになって、シリアを含めて、難民問題の恒久的な解決策を議論することが大切。今年12月に日本が共同議長国となって開催される「グローバル難民フォーラム」をそのきっかけとしたい」と訴えました。
次に、UNHCRシリアの細井麻衣が、トルコ・シリア大地震後の現状と課題について、オンラインで報告を行いました。地震発生時、震源地付近は雪が降っていて氷点下にもなる寒さであったこと、経済封鎖の影響もあり、重機などが入ることができず、地元の人々が手作業で救助活動を行っていた地域もあると話しました。
こうした状況のなかで、UNHCRは地震発生後、首都の倉庫に備蓄していた緊急支援物資(毛布、マットレス、キッチンセット、ソーラーランプなど)や冬服をトラックで輸送するなど、パートナー団体と連携しながら進めてきた緊急支援について説明しました。
地震から1カ月を過ぎてからは、避難所でのプライバシーの確保やトイレなど衛生面の改善、地震で紛失した公的書類の再発行など現場のニーズが変化していること、こころのケアの一環として、避難所の子どもたちに提供しているレクリエーションなどについても紹介しました。
さらに、UNHCRでは被災した建物のアセスメントにも力を入れているとし、「避難所に行くよう促しても、危ないのは承知で家を離れない人もいる。建物の安全性について、きちんとアセスメントをして示すことが必要」と話し、安全な場合は避難所から戻ってもらうことも検討し、危険だと判断された建物の所有者には、追加の支援として現金給付支援を開始したことにもふれました。
また、JICA国内事業部の後藤光次長からは、長引く人道危機に対する日本の支援として、JICAが実施しているシリア難民に対する人材育成事業「シリア平和への架け橋・人材育成プログラム(Japanese Initiative for the future of Syrian Refugees:JISR(ジスル))」についての発表がありました。2017年にスタートし、これまで60人以上を留学生として日本の大学院で受け入れてきたこと、卒業後もその多くが日本で就職、進学をして活躍しているといった実績についても紹介がありました。
これらの発表や議論を受けて、UNHCR駐日代表の伊藤は「これから先、シリアは非常に難しい局面に対応していくことになる。限られたリソースで、UNHCRにできるのは現場にとどまり活動を続けていくこと。日本からも引き続きの支援をお願いしたい」と訴えました。
最後に、UNHCR議連の事務局長の猪口邦子参議院議員が「これからもUNHCR議連としていろいろな提案をしたり考えたりしていきたい」と締めくくり、その一環として、今年12月に開催される「グローバル難民フォーラム」へのUNHCR議連としての貢献、日本政府とへの提案についての決議案が採択されました。