2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees:GCR)の理念に基づき、日本では難民支援に携わるステークホルダー間での情報交換が活発に行われています。その一環としてスタートしたのが、J-FUN(日本UNHCR・NGO評議会 – Japan Forum for UNHCR and NGOs)のメンバーにより開催されているMSC(Multi-Stakeholder Consultation)勉強会」です。
第8回のテーマは「クーデターから2年:ミャンマー人道危機に学び、日本からできることを考える」。2021年2月1日のクーデターから2年がたった今、ミャンマーの歴史的背景をあらためて学び、長年にわたる情勢不安により避難を強いられている人々の現状について理解を深め、日本ができる支援についての意見交換の場となりました。
冒頭のあいさつでは、UNHCR国会議員連盟の会長を務め、日本・ミャンマー友好議員連盟会長でもある逢沢 一郎衆議院議員より、「世界で故郷を追われる人々は年々増え続けており昨年1億人を超えた。ウクライナ危機に注目が集まっているのが現状だが、私たちはミャンマーのことを決して忘れてはならない。日本も国際社会と協力し、国内外にいるミャンマーの人々のために努力していかなければならない」と力強いコメントがありました。
最初の発表者は、ミャンマー研究の第一人者である上智大学の根本敬教授。ウクライナとミャンマーへの関心に差があるのは、ウクライナ危機は“不正義”が明らかであるのに対して、ミャンマーはその複雑な歴史的背景もあって、現状に理解・共感を寄せることの難しさもあるのではないかとの指摘がありました。
また、2021年のクーデターだけでなく、国軍はこれまでも大規模なクーデターを繰り返しており、そのたびに国民が多大な困難を強いられていること、国外に逃れる難民、そして国内にとどまらざるをえない国内避難民に対して国際社会の支援が十分に行き届いていないことにふれ、日本でも政府や市民、それぞれのレベルで実施すべきことを積極的に検討すべきだと訴えました。
続いて、日本に逃れてきた難民への法的支援に長年取り組み、全国難民弁護団連絡会議の代表を務める渡邉彰悟弁護士より、日本におけるミャンマー人の保護についての現状と課題について共有がありました。日本は今回のクーデター以降、ミャンマーから避難してきた人々に緊急避難措置を適用してはいるものの、現実はとても“緊急”とは言えない状況で不安定な生活を送っている人もいることを強調しました。
ミャンマーでつらい状況におかれ逃れてきた人が、日本で二重の苦を強いられることは絶対に避けなければならないとし、国際的な水準に則った適正な難民認定の確立を訴えました。
また、UNHCRの現場で活動する日本人職員は、ミャンマー周辺国の難民の状況とUNHCRの対応についての報告を行いました。ミャンマーは長期的な人道危機にあり、約150万人の国内避難民に加えて、インドやバングラデシュなど周辺国の難民の状況はそれぞれ異なることから、現場では包括的なアプローチが重視されていることが強調されました。また、帰還に関しては、安全で持続可能な状況が整って初めて実現するものであり現状難しいこと、ミャンマー危機の根本の原因に対して国際社会による対応が求められるなどの話がありました。
さらに、ミャンマー出身の大槻美咲さんから、当事者を代表して、在日ミャンマー人が直面している課題と必要とされている支援について発表がありました。大槻さん自身、約20年前に留学生として日本に来日し、現在はミャンマーの平和を創る会のメンバーとしてミャンマーからの留学生や技能実習生の支援を行っています。
日本での生活はミャンマーと大きく異なることから、日本社会に順応できずに不安を抱えている人も多いことにふれ、「日本の人々も彼らの困難に寄り添い、もっと長期的視点をもってミャンマーに関わってほしい」と訴えました。
続いて、外務省国際協力局の石丸淳国別開発協力第一課長より、クーデター以降のミャンマーの人道状況を踏まえた日本政府による人道支援についての紹介がありました。これまでに国際機関やNGOを経由し、直接ミャンマーの人々が裨益する形で合計4,700万ドル以上の人道支援を実施しており、今後も現場のニーズに応じて、必要とする人々に支援が届くよう、引き続き国際機関やNGOと連携しながら、ミャンマー国内のみならずタイ側の国境地域も積極的に対象に含め、多様な支援を展開していきたいと話しました。
最後に、1月にUNHCR駐日代表に就任した伊藤礼樹よりあいさつ。ミャンマーを含め、世界各地で続いている難民危機に対して、短期的な人道支援だけでなく、長期的解決を視野に入れた国際的枠組みが必要であること、その観点からも、今年12月に開催される「グローバル難民フォーラム」が重要な役割を果たすことが強調されました。第2回を迎える今回のグローバル難民フォーラムでは、日本が共同議長国を務めることが決定しています。「日本の取り組みを世界と共有し、難民支援におけるリーダーシップを示す大きなチャンス。日本国内でも12月に向けて難民支援の機運を高め、MSC勉強会のような多様なステークホルダーが集まる場をもっと活用していきたい」とコメントしました。