UNHCR駐日事務所では、各部署で常時1-2名のインターンが活躍しています。
2021年8月~2022年2月まで広報インターンとして勤務した西村日向さんは大学院生。小学校から陸上競技に没頭してきた西村さんは、2016年リオ五輪で初めて結成された難民選手団を見て、難民問題が一気に身近になったといいます。
東京2020オリンピック・パラリンピック期間から広報業務を支えてくれた西村さんに、スポーツを通じた国際協力に関心を持ったきっかけ、6カ月のインターンの経験などについて聞きました。
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陸上競技に打ち込んだ学生時代から
国際協力の道へ
両親が体育の教員だったこともあり、小さいころからスポーツが身近にありました。陸上競技人生のスタートは、小学4年の時に初めて出場した小さな市の大会。中学から部活で本格的に始め、高校、大学と没頭していました。学校には部活をするために行っていたぐらいの感覚(笑)。記録がどんどん伸びてきて楽しくなり、国際大会のような大きな大会に出るのが夢でした。
地元で陸上競技部が強い高校を選び、インターハイにも出場したのですが、大学推薦をもらうレベルではなく、受験勉強も陸上競技を続けるためにがんばりました。スポーツ科学や体育学について勉強しながら自分の競技を追究できるという点に魅力を感じ、選んだのが筑波大学でした。一方で、いつまでも競技だけをしていくことができるわけではない 、大学4年までに全力でやり切ろうと決めていて、入学後から卒業後の進路を考え始めていました。
大学1、2年でいろいろ悩んでいた時に、JICAのスポーツの取り組み、青年海外協力隊の活動を授業で知りました。僕は日本で競技に打ち込んで毎日楽しく過ごしているのに、海の向こうでは、毎日の生活で安全を得ることすら難しい人たちがいる。それまで、夢を追いかけるために続けてきた陸上競技で得た経験を生かし、将来スポーツの分野で社会に貢献したいと考えるようになりました。
大学2年の時に開催された2016年リオ五輪の難民選手団にも刺激を受けました。小さいころから陸上競技をやってきて、自分と同じ世代の選手がオリンピックに出始めた大会。その中に難民というバックグラウンドを持ったアスリートがいて、どこか他人事のように感じていた難民問題がぐっと身近に感じられて、関心を持つようになりました。
卒業後は大学院に進み、1年で休学して、JICA海外協力隊としてルワンダに赴任しました。スポーツは社会で必要なことを学べるツールです。授業では150人の生徒を1人で担当することもあり大変でしたが、ルワンダの子どもたちがこの先の人生で少しでも生かせることを伝えられたらと思いながら活動しました。体育ではみんなでルールを決めてそれに従ってやる、部活ではチーム全体で一つの目標に向かって切磋琢磨していく―。それがとても大切なことだと、僕自身が実感していたからです。
活動中は難民の方と接する機会はあまりなかったのですが、2021年5月に隣国コンゴ民主共和国の火山が噴火し、ルワンダに一時的に避難してくる人たちがいました。僕が住んでいた隣の家にそんな人たちを受け入れている人がいて、住む場所を追われた人を本当に自然に受け入れている姿を目の当たりにし、日本とはまた違う共生のあり方がここにはあるのだと思いました。
UNHCRのインターンを通じて
より深く知った難民問題
難民問題に関心を持ち始めてから、いつかUNHCRでインターンを経験してみたいと思っていました。ルワンダからの帰国のタイミングが東京2020オリンピック・パラリンピック開催と重なり、UNHCR駐日事務所がスポーツの取り組みを強化していることも知っていたので、自分の経験が生かせると思い応募しました。広報を希望したのは、大学の陸上競技部で広報活動(ウェブサイトやSNSの運営、スポンサー営業など)に携わった経験があったので貢献できると思ったからです。
インターン中はたくさんの発見と学びがありました。毎朝まず行うニュースクリッピングでは、常に何らかの形で難民についての報道が絶えなかったのが驚きでした。また、国内外のメディアで比較すると、海外のメディアの方が難民問題を取り上げることが多いようにも感じました。
日本のメディアのインタビューに同席する機会もあり、記者の方がどんな質問をするのか、難民問題を報道することについてどう考えているのかに触れることができました。故郷を追われた人の現状や課題、真実を報道したいという熱い思いを持った記者の方もたくさんいて、それもすごく印象的でした。
大変だった業務の一つは、外部からの問い合わせ対応です。まず、自分が書いた文章がUNHCRの対応になるという責任がありますし、ひとつひとつの表現や言葉に注意してドラフトを作る必要がありました。どんな問い合わせに答えるにも多くのバックグラウンドの知識が必要で、UNHCRのレポートや統計を調べたりする作業がたくさん必要になり勉強になりました。
そして楽しかったのは、企画段階から携わったスポーツをテーマにした広報用の動画(【動画公開】“ドリームボール”で夢をつなぐ)の制作です。僕自身スポーツを通じた難民支援に可能性を感じて勉強してきたので、東京2020の後もスポーツをツールとして難民支援の輪を広げていくために、職員やパートナーの方々と試行錯誤しながら取り組むことができてすごく楽しかったですし、動画に参加してくださった学校と団体の皆さんが試行錯誤して、短い動画の中でいろいろな工夫を凝らしてくれたことにも感動しました。
日本の若者から
難民支援の輪を広げる
僕たちの世代は、教育だったり社会の雰囲気を通じて、インクルーシブな社会をより意識していると思います。難民に限らず外国人とコミュニケーションを取ったり、一緒に社会を動かしていくことも普通で、その能力も可能性も十分にあると感じています。ですので、むしろ若い世代こそが、日本全体の中で共生社会を作っていく人材として、見本となる存在になれるはずです。
難民支援にもっと多くの若者を巻き込むためには、実際に難民の方と会う機会が増えることもきっかけになると思います。難民問題は調べれば調べるほど関心が高まっていく課題だと思うので、その第一歩として、UNHCRのイベントなどを通じて、実際に同世代の難民の方と交流できる機会が増えたらと思います。僕自身、インターン期間中に日本で暮らす難民の方と接する機会があり、ご本人のストーリーや思いを直接聞くことができ、とても大きな学びになりました。
UNHCRのインターンを
目指す人にメッセージ
難民支援の現場で大切な視点や考え方をたくさん学ぶことができるので、将来難民支援に少しでも関わりたいと考えている方はぜひ挑戦することをお勧めします。国連機関のインターンはハードルが高いと感じるかもしれませんが、難民支援の現場は本当に多様な人材が必要とされていて、僕のようにスポーツの専門性であったり、さまざまな経験や専門性を生かす道があるので、自分で限界を決めずにまず応募してみてほしいです。
僕自身はこれから大学院で「スポーツと難民」をテーマに、特に日本のスポーツと難民問題の関係性を調査して修士論文を書きます。昨年、さまざまな意見がある中でオリンピック・パラリンピックが東京で開催され、スポーツの社会的な価値をきちんと証明していかなければならないと感じています。UNHCRに入って難民支援の現場でもスポーツが期待されていることを知ることができ、スポーツ界でもスポーツがもっと社会課題に貢献できるという期待があるので、自分が研究と実践を続けながらそれを立証していきたいです。