2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees:GCR)の理念に基づき、日本では難民支援に携わるステークホルダー間での情報交換が活発に行われています。
その一環としてスタートした「MSC(Multi-Stakeholder Consultation)勉強会」は第3回目を迎え、5月に2日にわたって「難民雇用」テーマにオンラインで開かれました。
故郷を追われた難民は、その一人ひとりに、それまでの人生で培ってきた経験やスキルがあります。しかし、避難先で安定した就労の機会にアクセスすることは必ずしも容易ではなく、受け入れ国、コミュニティからのサポートがカギとなります。
UNHCR駐日代表カレン・ファルカスは「働く権利は、難民条約をはじめ、人権に関するさまざまな法律で明確に示されている。MSCでの活発な議論を通じて、日本における難民雇用、日本で暮らす難民の人生を変えるような機会の拡大につながることを願っている」と話しました。
冒頭のあいさつでは、外務副大臣として2019年12月の「グローバル難民フォーラム」に参加した鈴木馨祐衆議院議員より、「新型コロナウイルス、気候変動と合わせて人の移動は重要なトピック。社会との摩擦を減らすために難民雇用は大事な切り口であり、日本の雇用が変化する中でのニーズに対して、多角的な視野から議論を進めてほしい」とコメントがありました。
1日目は「日本国内での難民雇用」と題して、筑波大学明石純一准教授、明治学院大学可部州彦研究員による基調講演が行われました。明石准教授は「アフターコロナの時代、日本社会にますます根付いていくであろう外国人労働者と日本社会の互恵関係を部分的に積み重ねていく必要がある」、可部研究員からは「難民雇用においては、採用する際の課題が現場の担当者に解決の負担がかかっている」との指摘がありました。
これに続き、福祉心話会、ファーストリテイリング、栄鋳造所、認定NPO法人 Living In Peace、ダイキ日本語学院東京による事例紹介では、試行錯誤しながらも継続的に難民雇用を行うことで、既存の従業員の能力強化につながること、日本語能力でなく個々の適正やスキルを重視して採用を行う意義、就職後のスキルアップの道筋をつくる必要性などが共有されました。
また、日本の企業で勤務する難民の従業員からは、「最初は日本語が話せなかったが、他の従業員がサポートしてくれた。仕事は毎日大変だが、仕事の割り振りなどいつも丁寧に説明してくれ働きやすい」と動画メッセージが寄せられました。
2日目は、UNHCR本部で第三国定住などを担当するデビッド・マニコム特別顧問より「就労を通じた難民の受け入れの可能性」をテーマに発表があり、難民のスキルの構築だけでなく、平等な機会へのアクセスの確保が重要であること、就労を通じた第三国への移動は、IT、介護、看護師などさまざまな分野で可能性があることなどが、カナダの事例などを基に紹介されました。
また、グローバル企業として難民雇用に積極的に取り組むIKEAの戦略パートナーであるIngka Groupのメルセデス・グティエレス・アルヴァレス氏からは、難民と働くという新しい経験と多様な職場環境の創出が、革新的かつ創造的なサービスの提供につながっていること、店舗単位で難民雇用の戦略を立てていることなどの話がありました。
日本からは、国内外で難民雇用を実施しているBon Zuttner、クニエの2企業から成功例や課題について、外国人の進学、就労に向けた日本語教育を担う日本国際工科専門学校からは、日本語学校運営における自治体、地域住民との連携の重要性などについて話がありました。
UNHCR議員連盟の中川正春衆議院議員は「第三国定住による就労、民間企業の動きが活発になる中で、日本はもっと本格的にすべきことを考えるべき。多様な価値観を包摂する社会が日本の基盤をつくっていくことがなによりも大切」とコメントし、なんみんフォーラムの小山英之代表理事が「私たちにできるのは、まずは故郷から逃れてきた人々を受け入れて保護すること、そして社会統合をサポートすること」と、2日にわたる勉強会を締めくくりました。