UNHCRは現金を支給することで、貧困に陥ったシリア難民の生活を支えています。17歳の息子と暮らすシェイハさんは、UNHCRから毎月受け取る50ディナール(8,600円)を家賃に費やし、「この支援がなければシリアに戻らざるをえなかっただろう」と言っています。かつてアラビア語の教師をしていたIbrahimさん一家は、ヨルダン到着後しばらく自身の貯金でまかなってきましたが、現在は友人からの借金が3,000ディナール(51万円)を超え、UNHCRによる現金の給付支援に申し込みました。自閉症の息子を含む4人の子供を抱え、最近では食事の量や質も減らす生活を送っています。
現金の給付支援は主に住居費として、さらには食料や医療費にも利用されています。「難民」と聞くとテントを張った難民キャンプで生活している様子を想像しがちですが、ヨルダンでは84 %のシリア難民がキャンプの外に住んでいます。多くは経済的に厳しく、86%がヨルダンの貧困ラインを下回る生活をしています。現金の給付支援は、彼らが最低限度の生活を送るためにきわめて重要です。
この支援の対象になるかを判定するには、各家庭を訪問して調査を行います。住居費、光熱費、食費などの支出や給与、送金、NGO等からの支援などの収入に加え、1週間のうちで何日野菜や肉、乳製品を食べるかといったことまで尋ねます。基準を満たした難民には、家族の人数に応じて毎月50ディナール(8,600円)から120ディナール(20,600円)の現金が支給されます。
彼らが現金を受け取る仕組みは先進的で、世界中でもヨルダンで初めて実用化されました。事前に銀行で自分の目の虹彩を登録することで、街中の虹彩認証技術が備わったATMで簡単に現金を引き出せるのです。この方法は詐欺を防ぐだけでなく、指定された時間に配布所に行って列に並ぶ必要がないため、難民の尊厳を保ち、とりわけ母親だけの家庭や年配者、障碍者などは助かります。また効率が良く、資金の98%を難民が受け取る現金に回すことができるため、より多くの人々を支援することが可能になります。支援金が口座に入金される度に、彼らはこれが日本などのドナー国から提供されたと書かれたSMSを受け取ります。
日本政府は2015年、ヨルダンのシリア難民への現金支援に270万ドル(3.29億円)を提供しています。現在25,000世帯がこの支援を受けていますが、他にも多くの家族が切望しており、10,000世帯以上が順番待ち名簿に載っています。ヨルダンにおけるシリア難民の貧困は深刻化する一方で、国際社会からの支援がますます求められています。
(写真の家族は本文に出てくる家族とは異なります。)