6月7日 ジュネーブ発
UNHCRは6月7日、160万人を超えるシリア難民を支援するため、数十億米ドル規模の予算案を発表し、国際社会に向けて支援を要請した。
2013年12月末までを視野に入れたこの予算案では、シリア周辺国に逃れた難民を対象としたUNHCR主導の支援計画(「国連シリア地域対応計画」)に29億米ドル、OCHA(国連人道問題調整事務所)が主導で行うシリアの国内避難民への支援に14億米ドルが必要とされている。これに加え、レバノン政府は4億4900万米ドル、ヨルダン政府は3億8000万米ドルを必要としている。
これら全てを合わせると、人道危機に対する緊急要請としては史上最高額の50億米ドルとなる。これまでUNHCRは国際社会に向けてシリア危機への支援を要請してきたが、これまでに集まっているのは12億米ドルである。
この緊急要請はジュネーブの国連欧州本部(Palais des Nations )における記者会見で国連難民高等弁務官アントニオ・グテーレスと、ヴァレリー・エイモス緊急援助調整官が伝えた。この会見では、シリアでの紛争がうみだす過酷な状況をシリア国民が必死に耐え忍んでいることが強調された。2011年3月にシリアで紛争が勃発してから、160万以上がシリア周辺国に逃れており、425万人がシリア国内で避難を余儀なくされている。
「文明国シリアで、長引く紛争により国民の実に半数が人道支援を必要とする危機に直面している。今日発表した緊急要請は、苦境の中にいるシリア難民の生死に関わる重大なものであり、シリア難民を受け入れているシリア周辺国にとっても必要不可欠なものである。」
2012年12月に出されていたUNHCR主導の「国連シリア地域対応計画」は、今回の緊急要請によって改訂された。UNHCRとパートナー組織が、シリア周辺国に避難している難民の生命維持と保護の為には10億米ドル必要と判断したためである。12月に発表された予算額は、今年6月までにシリア難民の数が110万人になるだろうと予測して算出されたものだ。難民が増え続けている現状を鑑み、UNHCRは今年末までに難民の数が345万人に膨れ上がると予測している。さらに人道問題の調整役である国連機関OCHAは今年末までに、シリアの国内避難民の数が680万人になると予想している。
今回の緊急要請が発表される前日に、EUは今年末までに4億ユーロをシリア難民支援のために拠出することを発表した。EUによる寄付はこれまでシリア難民支援に寄せられた額の中でも最も多く、シリアの国内避難民とシリア周辺国へ逃れた難民への支援に充てられる。
ここ数ヶ月、国連機関、アラブ赤新月社、国際人道支援組織、現地の人道支援組織らが協働で活動を行ってきた。1ヶ月に240万人分の食糧を供給し、100万人以上の子どもたちにはしかやポリオの予防接種を行い、900万人分の水を安全に飲めるよう浄化し、92万人ほどの難民に生活必需品を届けてきた。しかし、これでも十分とは言えない。
新たな予算枠でUNHCRは支援規模を拡大し、400万人のシリア難民と42万人のパレスチナ難民の食糧を確保する予定だ。さらに170万人の子どもに予防接種を行い、700万人に健康維持のサポートを行い、1000万人分の清潔な水を確保する計画である。夏が近づいており、不衛生な水から発生する病気が増えることが懸念される。教育、難民保護と地域サービス、公衆衛生、シェルター、これら全てがなくてはならない要素である。紛争が起きている地域に生活する290万もの人々に、これらの支援をどのように届けるかが最重要課題である。
今回発表された「国連シリア地域対応計画」が対象としているのは、生命維持のための必要最低限の支援と難民の保護活動に限られている。この計画を基にUNHCRとともに活動している人道支援組織は、食糧、シェルター、現金支援などを必要とする、特に危機に瀕したコミュニティを優先して支援することにしている。
シリア国民は様々な側面から弱い立場に追いやられていると言える。シリアの国内避難民が生活するコミュニティ自体が疲弊しており、子ども、高齢者、女性など、特に支援を必要としている人を特定して支援を行うという努力が続けられている。中でも「性と性差に基づく暴力」を受けた人を対象としたサポートプログラムが始動しつつある。
シリア難民を受け入れている周辺国地域は公共サービスの提供が限界に近づいており、緊迫した状態にある。周辺国は寛容にシリア難民を受け入れてきたが、その結果受け入れ国は大きなダメージを受けている。シリア紛争は、シリア周辺国地域全体の安全保障の観点から見て脅威である。難民による国境越えは日常となり、シリア難民と、受け入れ国との関係は緊迫しつつある。
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