現在、世界で故郷を追われている人は1億1,000万人以上。第二次世界大戦後最大、この10年で2倍となっています。
その数字の裏には、一人ひとりの命と尊厳があります。故郷を追われた人々の未来を守るためには、一つの国や地域だけではない、”社会全体で取り組む難民支援”が必要不可欠。「難民に関するグローバル・コンパクト」でも掲げられている重要なキーワードです。
今年12月に開催される「第2回グローバル難民フォーラム」は、世界で拡大する難民問題を社会全体で向き合っていくために、全世界から難民支援の担い手が集まり、それぞれの取り組みや解決策の事例やアイデアを共有する場です。
今回のフォーラムで日本は共同議長国を務めることが決定しており、国際社会に日本発の難民支援を広める絶好の機会でもあります。日本発のUNHCRとの連携事例として、今日はウガンダでの取り組みをご紹介します。
▶グローバル難民フォーラム
▶難民に関するグローバル・コンパクト
ウガンダは、アフリカ最大の難民受け入れ国として知られています。南スーダン、コンゴ民主共和国、ソマリアを中心に、2023年6月時点で150万人以上が周辺国から避難してきています。長引く紛争や情勢不安、また、新たに発生する人道危機の影響を受けて、この10数年、悲しいことに、この地域で故郷を追われる人は増え続けています。
難民と聞くと“キャンプ”をイメージする人も多いかもしれません。しかし、ウガンダに逃れてきた人の約8割(その多くが女性と子ども)は、“難民居住区”と呼ばれる場所で暮らしています。難民居住区に広がっているのは、テントではなく、現地の素材などで工夫して作られた家。難民と受け入れコミュニティが共存し、生活に必要な資源を共有しています。ウガンダでは、難民は就労や移動の自由の権利も確保されています。
ウガンダ政府は、これまで寛大な政策のもとに、難民受け入れを進めてきました。それでもなお、難民が自立し生計を立てていくことは容易ではなく、職業訓練、雇用、財政、起業へのアクセスなどの強化が必要です。さらに、医療や教育など基本的なサービスに対するニーズの高まり、ジェンダーに基づく暴力などへの対応、子どもの保護、栄養不良、食料不安など、難民受け入れにおける課題は山積しています。
UNHCRは日本を含むパートナーとともに、ウガンダ政府と連携し、ウガンダに逃れてきた難民の保護、人道支援の強化に現場で取り組んでいます。長引く避難生活を受けて、目指すべきは、特に、教育、医療、水と衛生(WASH)、生計向上の分野において、ウガンダの公的サービスに難民を対象として加え、包括的な対応を行っていくこと。ウガンダ政府の取り組みを支えるために、日本の政府、JICA、NGO、民間企業など、日本発の難民支援も多くの事例があります。
たとえば、以下の4つ。
これらの取り組みはすべて「難民に関するグローバル・コンパクト」の4つのポイント(a. 難民受け入れ国の負担軽減、b. 難民の自立促進、c. 第三国定住の拡大、d. 安全かつ尊厳ある帰還に向けた環境整備)のいずれかに沿ったものです。
1. キャッシュ・フォー・ワーク(労働対価による支援)による生計向上(a/b)
ウガンダ北部、南スーダンと国境を接するラムォ県で、日本政府はUNDPの「ウガンダ北部の難民と受入コミュニティの再建に向けた人道支援、開発、平和構築の連携の促進」を通じて、難民と受け入れコミュニティの強靭性を高める活動を行ってきました。
また、日本のNGO道普請人、UNDP、UNHCRが連携し、生計向上、雇用、基本的なサービスや安全の提供のためのコミュニティの能力強化にも取り組みました。
この事業を通じて、難民と受け入れコミュニティの1,490人が「キャッシュ・フォー・ワーク(労働対価による支援)」を通じた生計向上支援を受け、40の村で貯蓄貸付組合の立ち上げにつながったほか、職業訓練を受ける機会も広がりました。
2. 太陽光発電を活用した灌漑システム(a/b)
ウガンダでは農業が産業の重要な部分を占めています。しかし、電力供給が不安定な地域も多く、農業の生命線でもある灌漑システムの改善が課題でした。そこで、国連食糧農業機関(FAO)は、電力事情に影響されない、太陽光発電を活用した灌漑システムを導入。難民と受け入れコミュニティの食料安全保障が確保され、現地の農業市場にも大きく貢献しました。
こういった「気候スマート農業」は、年間を通じて、農家に対する降水量の影響が格段に減ります。ウガンダ国内の生産量の増加とともに、ニンジン、ナス、ケール、タマネギ、トマトなど、市場の需要が高くかつ栄養価の高い農産物の安定した供給が、難民と受け入れコミュニティの食料安全保障につながっています。
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こういったウガンダでの取り組みは、日本政府による「人道と開発と平和の連携」の一環で行われており、JICAの開発援助も重要な役割を果たしています
JICAは、2021年からウガンダ政府の機能強化のために、首相府難民局に難民支援アドバイザーとして専門家を派遣。中長期化する大量の難民の流入、受け入れコミュニティの住民に対する包括的な対応や開発計画への統合などが必要とされるなか、ウガンダ政府の政策策定・調整・実施能力強化を支援しています。また、ウガンダが共同議長国を務める「第2回グローバル難民フォーラム」に向けて、ウガンダ国内での政策策定に貢献しています。
3.西ナイル・難民受入地域レジリエンス強化プロジェクト(a/b)
周辺国の情勢悪化により、この数年でウガンダに避難してくる難民は増加しており、難民居住区内にある教育や医療などの基本サービスは、受け入れ能力を超えています。また、森林や水など、生活に必要な資源をめぐる難民と受け入れコミュニティの対立も後を絶ちません。
そこでJICAは、南スーダンから大量の難民が避難してきている西ナイル地域において、地方行政の能力向上を図り、難民と受け入れコミュニティ双方のニーズを把握し、政策立案から開発の事業実施につなげるための取り組みを行っています。
4. コメ振興プロジェクト(PRiDe:Promotion of Rice Development)(a/b)
ウガンダでは、農業分野の取り組みも進められてきました。主食として需要が高まっているコメの栽培技術を伝えることで、地元の人、そして多くの難民の自立につながっています。現在は、これまでの成果を受けて、コメの生産性と品質向上に向けた研究・普及体制の整備に取り組んでいます。
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難民の命と尊厳を守る
“社会全体で取り組む難民支援”へ
このほかにも多様な日本の難民支援の担い手が、それぞれの強みを生かし、故郷を追われた人々、受け入れコミュニティを支えています。なかでも民間セクターは、人道支援だけでなく、より良い未来に向けた自立を促す持続可能な解決策にも貢献しており、ますます重要な役割を果たすようになっています。
日本は「第2回グローバル難民フォーラム」の共同議長国として、アジア太平洋地域の代表としてリーダーシップを発揮し、国際社会で“社会全体で取り組む難民支援”を推進していくことが期待されています。
一人ひとりにできること、そして役割があります。 “社会全体で取り組む難民支援“を通じて、誰一人取り残さない社会の実現が、日本からも広がっています。