現在、世界で故郷を追われている人は1億1,000万人以上。第二次世界大戦後最大、この10年で2倍となっています。
その数字の裏には、一人ひとりの命と尊厳があります。故郷を追われた人々の未来を守るためには、一つの国や地域だけではない、”社会全体で取り組む難民支援”が必要不可欠。「難民に関するグローバル・コンパクト」でも掲げられている重要なキーワードです。
今年12月に開催される「第2回グローバル難民フォーラム」は、世界で拡大する難民問題を社会全体で向き合っていくために、全世界から難民支援の担い手が集まり、それぞれの取り組みや解決策の事例やアイデアを共有する場です。
今回のフォーラムで日本は共同議長国を務めることが決定しており、国際社会に日本発の難民支援を広める絶好の機会でもあります。日本発のUNHCRとの連携事例として、今日は「ピースウィンズ・ジャパン」がケニア北西部で実施している衛生事業をご紹介します。
ピースウィンズ・ジャパン(以下、ピースウィンズ)は、国内外で自然災害、人道危機に対して活動しているNGOで、世界36の国と地域で活動しています。そのひとつがケニアです。
なかでも、国境を接する南スーダンを中心に、アフリカ各地から多くの難民が逃れてきている北西部のトゥルカナ郡では、避難生活が長期化するにつれて難民のニーズも変化しており、多様な難民支援が必要とされています。
その一例が、女性や少女の月経の問題です。そこでピースウィンズは活動地の一つであったカロベイエイ難民居住区で、「生理に関する沈黙を破る」をモットーに、月経衛生啓発活動を2019年から実施しています。
月経衛生に関する課題の一つは、地域の女性や少女たちが、生理について学んだり相談したりできる環境が整っていないこと。学校や地域でも十分なサポートがなく、家族の中でも生理に関する悩みが相談できず、生理中は学校に行くことができない・・・。そんな悩みを抱えている少女たちも少なくありませんでした。
そこでピースウィンズでは、月経衛生に関する啓発と意識改革のため、学校や地域の関係者に研修を実施しました。その内容は、ジェンダーや水と衛生に関する基礎知識から、第二次性徴や月経中の衛生管理までさまざま。また、女性だけでなく男性も研修の対象とすることで、ジェンダーに関係なく、地域の誰もがサポートできる体制づくりを重視しました。
研修を受けた人々からは「月経管理に関する研修では色々な意見が飛び交いました。学んだことをさらに広めていくことが楽しみです」「僕には姉妹がいますが、励ましたり、生理について話したりことで、彼女たちを安心させたいと思います」。
これまで“沈黙”せざるを得なかった女性や少女たちにどのようなサポートが必要なのか、地域ぐるみで考え、行動する環境が整いつつあります。
そしてもう一つ、このプロジェクトで重要な活動が布ナプキンの製作です。これまでは使い捨てナプキンが主流で、毎月必要な量を自分で購入する余裕がなく、支援団体などから提供されたものを使用している人がほとんどでした。そこでピースウィンズは抗菌の乾きやすい素材を使った布ナプキンの製作を提案。さらに、難民の女性たち自身の手で作ることができるよう、縫製技術や布ナプキンの使い方を学ぶ研修を実施しました。
今では、難民や地元住民による縫製職人グループもできて、ピースウィンズへの寄付により作業用のアトリエもできました。布ナプキンを手にした少女たちは「学校にも気にせずに行くことができます」「勉強したり、歌ったり踊ったり、自分が好きなことができるようになった」などと笑顔を見せます。
ピースウィンズのエブリン・トゥマイナさんは「研修などを通じて、生理を迎えるのは自然のことで、悩む必要はないこと、困ったことがあれば、周囲の信頼のできる大人に相談して良いこと、そのような女の子を周りは支える必要があるといった、これまでのタブーや偏見を乗り越えた動きが見えてきています」と話します。
これからは、布ナプキンを洗うための安全で清潔な水の確保、学校での着替え室の整備など、まだまだ課題があるといいます。また衛生分野での課題として、野外排泄に対する取り組みとして、衛生改善に向けた住民の主体的参加の促進なども進められています。
この支援のキーワードは”自立”です。月経衛生について地域全体が理解し、難民の女性や少女が自分たちの手で、自分たちの未来を切りひらくことができる—。ピースウィンズによる地道な支援により、この地域で暮らす難民たちが思い描いていた未来が現実になりつつあります。