UNHCRでは、世界各地でユース世代を巻き込みながら、誰一人取り残さない、共生社会の実現に向けた活動に取り組んでいます。
日本でもさらなる連携に向けて、UNHCRが日本で連携しているYouth UNHCRとEmPATHy、UNHCR難民高等教育プログラム(RHEP)奨学生が、UNHCR新駐日代表の伊藤礼樹にインタビューを行いました。
ユース:こんにちは。今日は伊藤代表のキャリアやUNHCRの仕事についてお聞きできるのを楽しみにして来ました。どうぞよろしくお願いいたします。
まずはじめに、伊藤代表はユース時代、どんなことに打ち込んでいらっしゃいましたか。
伊藤:私はもうユースではないですかね(笑)。実は皆さんのように、学生時代から難民問題にすごく関心があったというわけではないんです。思い返してみると、最初のきっかけは、高校時代に行ったニュージーランドへの交換留学だったように思います。スリランカから来たタミル人と仲良くなったのですが、ちょうどスリランカで民族紛争が激しくなっていた時で。私は留学が楽しかったので「日本に帰りたくない」と話していたんですが、その友達は「自分は帰りたくても帰れない、家も焼かれてしまった」と。その時初めて、世界にはそういう現実があることを知りました。
大学では政治学を専攻し、その時もまだ、人道支援活動に自ら携わることは考えていませんでした。最初の1年は日本の大学に通っていたんですが、アメリカに交換留学に行って居心地が良くなってしまい、そのまま居ついてしまったんですね。アカデミックの視点を極めたいと大学院に進学して、社会人経験を積んで、いずれは博士課程に進みたい―。そんなふうに、ぼんやりと自分の将来を思い描いていました。
実は、修士課程の後には日本での就職も決まっていたんです。内定から約1年、入社まで時間があったので、少し違うことに挑戦してみたいと考えました。そのころ、ボスニアの紛争が始まって、BBCなどのニュースでも毎日のように流れていたので、自分になにかできることはないかと思って、国連ボランティアに応募しました。そして派遣されたのがボスニアのUNHCRでした。
ユース:国連ボランティアとしての活動はどうでしたか。
伊藤:初めての人道支援の現場は、正直ショックの連続でした。私も当時は、大学で人権法を学び、熱意あふれて現場に向かったユースでしたが、目の前で民族浄化が起こっていて、半年の間に一気に年を取ったような気がします。
今でもよく覚えているストーリーがあります。ある日の視察で、村が全部焼かれていて、そこでイスラム系の住民と遭遇しました。50人くらいはいたでしょうか。道を歩いていたんです。どうしたんだと聞いたら、村を追い出された、と。事務所にいる同僚に無線で連絡して、トラックかバスを送ってくれといったら、ダメだと言われました。その人たちの移動をサポートすると、民族浄化に加担することになるからと。そうしている間に、クロアチア系の民兵の指揮官がやって来て、どうにかならないかと交渉したのですが、女性と子どもはいいが男性は置いていけと言われました。結局、UNHCRとして女性と子どもを移送することになったのですが、3カ月前まで大学院生だった私にとっては、非常に重い決断でした。今でもなにが正解だったか分かりません。
ユース:そこからどのようにUNHCRに入られたのでしょうか。
伊藤:国連ボランティアの後、皆さんもよくご存じのJPO(Junior Professional Officer)派遣制度を通じてUNHCRの職員になりました。それから30年、2年間だけ他の組織に出向したことはありましたが、ずっとUNHCRですね。本部に少しいたこともありますが、ほぼ現場での仕事です。
ユース:UNHCRの現場のスタッフは、どのように1日を過ごしているのか興味があります。
伊藤:最初に派遣されたミャンマーのモンドウでは、文字通り、バンブーハウスに住んでいました。朝起きて、コーヒーを飲んで、その後は難民キャンプに行ったり村々を回ったりして、難民の方たちと話をします。パートナー団体とプロジェクトの進捗を確認して、地元の軍と交渉を行ったりもします。それから、事務所に帰ってレポートをまとめます。
UNHCRの現場では、特に首都から離れた場所では、スタッフもみんな同じ敷地内に住んでいることが多いんです。ですから、仕事から帰ってきて、シャワーを浴びて、同僚とごはんを食べたりビールを飲んだり。でも2年間ずっと一緒にいると、そのうち仕事後は顔を見たくもなくなるので(笑)、部屋にこもって本を読んだりすることもあります。
ユース:UNHCRで働いていて、良かったこと、やりがいはありますか。
伊藤:そうですね・・・、ひとつ良かったのは、JPOでミャンマーに派遣されていた時に、フランスのNGOで働いていた今の妻と出会ったことでしょうか(笑)。
一番のやりがいは、これは同時にプレッシャーでもあるのですが、結果がすぐに出ることです。先ほどお話ししたボスニアでも、私の行動次第では、全員助からなかったかもしれない。でも半分は助けることができた。原則に縛られた決断をしていたら、誰も助けることができなかったと思います。自分の決定の結果がすぐ出る、でもその決定はすごく重い―。プレッシャーと結果のはざまにやりがいがあります。
こう話すと難しく聞こえるかもしれませんが、やってみるとできるものです。皆さんにもきっとできます。
ユース:私たちが一緒に活動している仲間には、将来UNHCRで働きたい、人道支援に携わりたいという人がたくさんいます。学生時代にやっておいたほうがいいことはありますか。
伊藤:まずは、勉強をがんばってください。UNHCRの仕事はいわゆる“現場”が多いので、学問を通じて学んだことを、どう現場に落とし込んでいくかが重要になります。それは経験を通じて身に着けていくものですが、基礎となる学びは、学生時代だからこそ積み重ねることができると思います。
そして、自分の専門分野はもちろんですが、本、映画、音楽、いろいろなものにふれて人間を豊かにしてほしいです。そうすることで自分で考える力がついてきますし、将来どんな仕事をするうえでも、大きな財産になると思います。
あとは、UNHCRや人道支援の仕事は体力勝負。私自身は学生時代スポーツに熱中していて、高校時代はアメフト、アメリカの大学時代はラグビーをやっていました。厳しい現場での仕事をまっとうするためには、その時の経験も役立っているかもしれません。
ユース:日本ではまだ難民への理解や共感が低いように感じており、私たちユースは「共鳴・共歩・共創」を掲げて活動しています。日本にはこれから何が必要だと思いますか。
伊藤:昨年から続くウクライナでの人道危機を通じて、日本でも難民問題に興味を持った人は多いと思います。実際に、日本の政府、個人、企業、学校、市民社会など、日本のさまざまな場所から支援の輪が広がりました。でもその関心をどう持続させるかが課題だと感じています。
日本ではまだ、難民といえばかわいそうで援助が必要な人、というイメージが強いと思います。まずはそれを変えるべきです。故郷を追われても、勉強して、自立して、仕事をして社会に貢献している難民の方がたくさんいます。もちろん、日本にもいます。世界のどこかで緊急事態が起こって、その時だけ難民のことを思い出すのではなく、もしかしたら、あなたの身近にいるかもしれない難民の存在に気付いてほしいと思います。
ユース:私たちユースに期待することはありますか。
まずは日本で “外向き”のムーブメントをつくることが大切です。私はユースの皆さんの存在が、その突破口になるのではと期待しています。大人の凝り固まった頭をユース世代の柔軟な発想や創造力でほぐしてほしい。そして、どんどん多くの人を巻き込んで活動を広げてほしいです。もちろん、私たちUNHCRもサポートします。
そして、今年の12月に開催される「グローバル難民フォーラム」もひとつのきっかけとなると思います。4年に一度開催される国際会議で、政府だけでなく、民間セクター、学術界、市民社会、そして難民も、あらゆる立場の人が一堂に会して、長期的な難民危機にどう対応していくか、その枠組みを考えアイデアを交換する場です。日本は共同議長国を務めることが決まっており、そのリーダーシップが期待されています。
この会議では、世界各地で実施もしくは計画されている取り組みを「宣言」として集めています。日本で活動するユースの皆さんにも、難民問題に対してユースとしてこれができる、ということをぜひ「宣言」してほしいです。ユースだけでなく、他の人たちのとの連携、ビジネスとのリンクなど、そういうアイデアをどんどん出してほしいです。皆さんの活躍に期待しています。
<対談を終えて~ユースの感想>
・現場でのご経験やキャリアについてのお話を伺って、難民の現状に思いをはせ、自分の将来について考える良い時間を過ごすことができました。今後の活動でもUNHCRの皆さんと連携し、新しいことにもチャレンジしつつ、より多くの人に難民問題に関心を持ってもらえるような取り組みができたらいいなと思っています。
・伊藤代表のUNHCRでの経験は、とても洞察に富み、インスピレーションを与えてくれるものでした。難民支援への献身的な姿勢、困難な状況下でのリスクテイクへの意欲は印象的でした。また、難民を理解し支援する上での日本の課題について見解を聞くことができたのも興味深かったです。もっと勉強して、人道的な仕事に携わりたいという意欲がわいてきました。
・想像していた以上にきさくにお話を伺うことができ、とても貴重な機会で勉強になりました。これからユースの仲間と、いろいろな問題にチャレンジして行きたいと感じました。
・UNHCR職員の現場での生活や伊藤代表がご経験された現場での実体験から、より現場に行きたいという思いが強まり、また勉学により一層励んでいきたいと思いました。自分が学んだことを現場での業務にどう落とし込むのかということを心に留めておきたいです。また、ユースに何を求めているのか明確に知ることができ、今後の活動に生かし、社会を巻き込む活動を行っていきたいと思いました。