2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees:GCR)の理念に基づき、日本では難民支援に携わるステークホルダー間での情報交換が活発に行われています。
その一環としてスタートしたのが「MSC(Multi-Stakeholder Consultation)勉強会」。これまで教育や雇用、アフガニスタンなどをテーマに定期開催してきましたが、第5回を迎える今回は、ウクライナで続く人道危機を受けて「ウクライナ危機:社会全体での受け入れに向けて」をテーマに議論、情報交換を行いました。
冒頭には、UNHCR国会議員連盟の会長を務める逢沢一郎衆議院議員が開会のあいさつを行いました。「ウクライナ議連、日露友好議員連盟のメンバーとして、今回の事態には大変な衝撃を受けている。ウクライナが一刻も早く平和と安定を取り戻すために、国際社会とともに外交努力を強化しなければと決意を新たにしている」と述べたうえで、「日本での受け入れに関しては、UNHCR議連として、政府やNGOとも連携して対応にのぞんでいきたい」と訴えました。
続いて、ウクライナ危機に対するUNHCRの対応について、UNHCR駐日事務所 副代表(法務担当)阿阪奈美より発表がありました。ウクライナでは第二次世界大戦以降、最も急速に難民危機が拡大していること、その大半が女性と子どもであることからジェンダーに基づく暴力のリスクも高まっていること、ウクライナで暮らす第三国の国籍を持つ人々の避難における課題などが共有されました。また、近隣国が寛容な姿勢で受け入れを行う一方、紛争の長期化は対応能力の限界にもつながるとの懸念を示したうえで、世界的に見ても日本から多くの支援が寄せられていることに感謝を示し、他の国もこの動きに習いたいという流れが生まれていることを紹介しました。
続いてウクライナから日本に避難してきた人々への対応として、日本政府やNGOからの情報共有、アフガン難民の受け入れに関する事例の紹介がありました。
日本政府の取り組みについて発表を行ったのは内閣官房の芥川希斗参事官補佐。3月2日から4月12日の間でウクライナから544人が避難してきており、政府では連絡調整会議やタスクフォースを立ち上げ、外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)で自治体の相談デスクを開設したことなど、政府の対応についての説明を行いました。また、身元引受人がいない人に対しては、一時滞在施設の提供、受け入れを表明している自治体とのマッチングなど、さまざまな側面からサポートしていることなども紹介されました。
また、パスウェイズ・ジャパン折居徳正代表理事からは、日本への避難を希望する人に対して順次面接を行っているとし、どのくらい日本に滞在したいと思っているのか、一人ひとりの状況や要望は多岐にわたることから、どの選択肢もとれるような体制を整えることが重要だと話しました。また、日本政府から受け入れについての方針が発表された後、自治体や民間による支援の表明が相次いでいる一方、住居だけあればいいというわけではなく、一人ひとりの生活を支える多方面のサポートの実現に向けて、組織をまたいだ連携の調整が必要であることなどが指摘されました。
日本ウクライナ友好協会KRAIANYのスヴィドラン オレナさんからは、2月末以降、ウクライナからの難民受け入れ支援に関して、日本各地から毎日途絶えることなく問い合わせが届いていることが共有されました。そもそもはウクライナの文化を日本に紹介する小さな団体であることもあり、団体として支援に関する問い合わせすべてに対応することが難しいこと、日本政府や市民社会が協力して情報収集やマッチングを行い、迅速かつ適切に対応が行われるべきなどといった提案がありました。
そして、日本での難民受け入れの事例紹介として、アフガニスタンから退避してきた人の受け入れを行ってきた島根大学の増永二之教授からその経験と課題の共有がありました。昨年8月のタリバンによる全土掌握を受けて、島根大学では地元と連携しながらアフガン人の研究者とその家族の受け入れを実施してきたものの、入国手続きからビザの切り替え、居住場所の手配や滞在費のサポート、日本語の習得や雇用など、一大学やボランティアだけでは対応が困難なことも多く、難民の持続的な受け入れに向けた課題が共有されました。
ウクライナではいまだ緊急事態が続いており、さらなる長期化も予想されます。日本でも一人ひとりができることを考え、社会全体での行動につなげていくこと、ウクライナ以外に世界各地で続いている難民危機も忘れずに支援を続けていくことが重要です。
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