2021年夏、東京で開催されたオリンピック・パラリンピックに出場した「難民選手団」の活躍を通じて、難民問題に関心を持った人も多いのではないでしょうか。
3月初旬、オリンピック難民選手団の事前キャンプ受け入れを行った早稲田大学のイニシアティブで、国際オリンピック委員会(IOC)、UNHCR駐日事務所との共催でオンラインイベント「難民アスリートとともに東京2020大会を振り返る」が開催され、オリンピック難民選手団の2人も参加しました。
早稲田大学での事前キャンプは、数年にわたる準備、関係機関との調整、新型コロナウイルスのパンデミックによる1年延期を経て、2021年夏にやっと実現を果たしました(くわしくはこちら)。そのレガシーを学生たちとも共有し、大学としてできる難民支援につなげていきたい―。そんな想いで企画されたのが本イベントです。
冒頭のあいさつはIOCで難民選手団の広報を担当したアン・マリー・ティーロさん。「さまざまな困難や変更がありながらも、難民選手団は早稲田という素晴らしい場所で事前キャンプをすることができました。早稲田大学の皆さんとのつながり、きずなに感謝しています。今日は、アスリートにとってかけがえのない経験となった東京2020大会の話が聞けるのを楽しみにしています」と話しました。
このイベントの企画・進行を担当したのは、早稲田大学学生オリパラプロジェクト「VIVASEDA」のメンバー。早稲田大学が事前キャンプを受け入れた難民選手団やイタリアの選手団、早稲田出身のオリンピアン・パラピアンをさまざまな形で応援してきました。また、今回のイベントには、難民選手団の啓発活動に参加した他大学のユース団体もパネリストとして参加しました。
オリンピック難民選手団を代表して登壇したのは、アラム・マフムード選手(シリア出身、オランダ在住バトミントン男子シングルス)とジャマール・アブデルマジ・イーサ・モハメド選手(スーダン出身、イスラエル在住、陸上競技男子5,000m)。難民というバックグラウンドについて、東京2020大会での経験やスポーツのチカラなどについて、パネリストの学生たちからの質問に丁寧に答えてくれました。
アラム選手はシリアに暮らしていたころにバドミントンを始め、バドミントンがあったからこそ、国内外に多くのつながりができたといいます。紛争から避難を余儀なくされた時も「バドミントンを平和に続けることができる場所に行きたい」と、今では“第二の故郷”というオランダで新しいスタートを切りました。自分の中にあるネガティブな考えやつらい経験も、練習を通じて変えることできると話します(アラム選手のストーリーはこちら)。
ジャマール選手は小さいころに紛争から逃れるためにスーダンを離れ、いくつもの国を移動した後、現在暮らしているイスラエルにたどり着きました。最初に陸上を始めたきっかけは“友達の勧め”だったものの、今は走ることがとても楽しく、プロとしても誇りを持って日々練習や試合に取り組んでいるといいます。
東京2020大会に難民選手団としての出場が決まった時は「自分はなんてラッキーなんだと思った」と2人とも口をそろえて振り返ります。オリンピックはアスリートであれば誰もが目指す夢の舞台であり、その実現がどれだけ難しいかも分かっていたからです。
1年延期による不安も多くあったものの、ついに立つことができたオリンピックの舞台。アラム選手は世界ランクが上の対戦相手から先制点を取れたこと、ジャマール選手はスタートラインに立った瞬間がアスリート人生最大の誇りだったと話します。
また、早稲田大学の事前キャンプに参加したジャマール選手は、「本当に素晴らしい環境で練習できました。早稲田の皆さんにもとても親切にしていただきました」と感謝を伝えました。長い旅路を経て最初に出た食事が「とてもおいしくかったのが忘れられない。思わずおかわりしてしまいました(笑)」といったエピソードを共有してくれました。
最後にアラム選手は「世界でスポーツへのアクセスがない難民の子どもたちに、難民として、アスリートとして、自分がどのようにサポートできるかを考えていきたい」、ジャマール選手は「故郷を追われた8,000万人を超える難民の代表となれたことほど光栄なことはない。難民アスリートとしての姿を通じて、10代の難民の若者に夢は必ずかなうと伝えていきたい」とメッセージをおくってくれました。
2人の難民アスリートの話を受けて、UNHCR駐日首席副代表のナッケン鯉都は「国籍、文化、人種を超えて、人と人とをつなぐスポーツのチカラを実感しました」とコメント。「難民選手団はスポーツに対する挑戦、難民が直面する困難への挑戦という2つの挑戦がある。だからこそ私たちは勇気づけられ、みんなの希望の光となるのだと思います」と話し、東京2020大会で難民選手団のサポ―トをリードしてくれた早稲田大学や学生たちにも感謝を伝えました。
また、早稲田大学の恩藏直人常任理事は「難民選手団の事前キャンプを受け入れることができたことを本当にうれしく思います。私たちができたのはわずかな支援ではありますが、選手一人ひとりのサインが書かれたポスターは大学の宝物です」とし、今回の経験を生かして、今後も難民支援を続けていきたいと話しました。
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