10月に東京・恵比寿エリアで企画された展覧会『今、この時代に考える「人道」』(主催:在日スイス大使館、ICRC駐日代表部、日本赤十字社、UNHCR駐日事務所、日仏会館・フランス国立日本研究所)の一環として、UNHCRオンラインイベント「故郷を追われた女性・少女の保護と未来に向けて」が開催されました。
紛争や迫害により故郷を追われる人が8,000万人を超えるなか、難民支援の現場で特に弱い立場におかれているのが女性と少女です。差別、暴力、児童婚などさまざまなリスクに直面している女性と少女の命、尊厳ある生活を守るために、UNHCRはパートナー団体と連携しながらさまざまな取り組みを実施しています。
まず難民の当事者として登壇したのは、バングラデシュで生まれ、現在は日本で暮らすロヒンギャ難民のカディザ・ベコムさん。ロヒンギャ民族では文化的、宗教的に女性が外に出ていくことが容易でなく、また、日本という慣れない環境下で、家族の理解、サポートを得ながらさまざまな挑戦を続けてきました。ゼロから日本語を勉強し、大学入学、出産、そしてユニクロへの就職を果たし、この春からは大学院で学んでいます。
「父が医師だったので、小さいころから治療のために訪れる難民の人たちを見ていました。父からはいつも、みんな同じ民族、だから家族なんだよ、と。私自身も難民の厳しい状況を伝えていくことが大切だと感じるようになりました」。難民として日本で生活しながら社会に貢献し、難民たちの力になりたいと、「UNHCR難民高等教育プログラム(RHEP)」を通じて奨学金を得て、大学で学ぶという夢をかなえました。
そんなカディザさんが日本で暮らしていて感じるのは、特にロヒンギャ難民の女性たちが直面している困難。特に“日本語”という言葉の壁は大きいといいます。そこで、カディザさんは女性たちが尊厳ある生活を送れるよう、日本語教室、病院などでの通訳、子どもへの学習支援などの活動にも取り組んでいます。「教育など機会さえあれば、難民の女性もさまざまな形で貢献できる存在だということを知ってもらいたい」と訴えました。
続いて登壇したのは、日本各地の大学生が中心となり難民支援に取り組むプラットフォーム「Youth x UNHCR for Refugees」の メンバーとして活動している髙桑樹理さん。今年の「世界難民の日」には、カナダ在住の元アフガン難民、女子柔道のオリンピアンのフリーバ・ラザイーさんを招いてオンラインイベントを開催し、フリーバさんがアフガン難民として、アフガン人女性として直面してきた困難をどう乗り越えてきたか、そこでスポーツのチカラがどのような役割を果たしたかなどについて、日本のユースたちと議論しました。「私たちユース世代にできることは、カディザさんのようにがんばっている方々の声を多くの人に知ってもらえる機会をつくること」と高桑さんは強調しました。
そして、東京2020パラリンピックに出場した難民選手団のホストタウンを務めた文京区からは、川﨑慎一郎文京区アカデミー推進部スポーツ振興課長から、これまで文京区が取り組んできた難民支援、パラリンピック難民選手団との交流についての紹介がありました。
川﨑課長は難民選手団のユスラ・マルディニ選手やアリア・イッサ選手を例に、オリンピック・パラリンピックで女性アスリートたちの活躍に大きな力をもらったとして、「スポーツだけでなく国際理解の促進にもつながる機会。パラリンピック難民選手団のホストタウンとなることで、まず区民に難民問題について知ってもらう、そして知ったことを家族や区外の人にも伝えてもらえればと思いました」と話しました。文京区では小学生を対象に難民について学ぶオンラインイベントや、パラリンピック難民選手団のイリアナ・ロドリゲス団長との交流会など、未来を担う世代の巻き込みも積極的に行いました(関連記事はこちら)。
高桑さん、川﨑課長の発表を受けて、カディザさんは「まずは知ることがとても必要。このイベントに集まってくださっている方は難民問題に関心を持っていると思いますが、私たちの近所の人、スーパーや病院の人など、難民が日常で会う一般の市民の皆さんにこそもっと知ってほしい。そして、難民といってもバックグラウンドもさまざまなので、一人ひとりのニーズを相談できるプラットフォームのようなものができれば」とメッセージをおくりました。
最後に、モデレーターを務めたUNHCR駐日首席副代表のナッケン鯉都より、今回のイベントで紹介されたユースや自治体の事例からも「難民に関するグローバル・コンパクト」でも掲げられている社会全体での取り組みが大切であるとして、「まずは世界の問題を自分の問題としてとらえ、一人ひとりが当事者意識をもってアクションを起こしてほしい」とコメントがあり、イベントを締めくくりました。