2021年8月、1年の延期を経て開催された東京2020パラリンピック競技大会。パラリンピック難民選手団が公式に初めて結成され、6人の難民アスリートが出場しました。
障がいのある難民はどのような困難に直面しているのでしょうかー。現場で必要とされている支援、障がいのある難民にとってのスポーツのチカラなどについて、UNHCRで障がい者支援を担当するリカルド・プラ・コルデロに聞きました。
■パラリンピック難民選手団の結成はどのような意味を持つのか
パラリンピック難民選手団は、女1人男5人、4カ国出身の6人の難民アスリートで構成されています。私は彼らが開会式で最初に入場する姿を見た時、国際的なスポーツ大会で新たな境地が開かれたように感じました。障がいのある難民も、ほかの人と平等な立場で世界の舞台に立てるようになったのだと。
■世界で故郷を追われた人の中で障がい者はどのくらいいるのか
正確な数値は出ていませんが、障がいのある難民は世界におよそ1,200万人いると推定されています。この統計は一般的な障がい者の割合とされる15%から割り出したもので、紛争や暴力、迫害などで故郷を追われた8,240万人に対するものです。しかしながら、人道分野での調査では、実際の数値はこれより高いともされています。たとえば、ヨルダンでUNHCRが行った2019年の調査では、ヨルダン国内にいるシリア難民の21%になんらかの障がいがあるとされています。
■障がいのある人に対する強制移動の影響は
障がいのある人は、強制移動の影響を非常に受けやすいことは明らかです。身体的、心理社会的、知的、感覚的な障がいがない人と比べて、暴力、差別、搾取、虐待などの高いリスクにさらされています。
■UNHCRが障がい者に対して行っている支援は
UNHCRは難民や国内避難民が、他の人と平等に、基本的な権利や自由へのアクセスができるよう支援しています。たとえば、難民が避難先の国の市民と同じ権利にアクセスできない場合、障がいのある難民についてもそれは同様で、その国の障がい者と同様の社会的な保護を受けることができません。私たちは障害者権利条約に基づき、パートナー団体、他の国連機関などと連携しながら、ダイバーシティを認め、障がいのある人も平等に権利にアクセスできるよう各国に呼び掛けています。
■決して容易でない課題だが、UNHCRが取っているアプローチは
UNHCRが採用しているのは、コミュニティーを基盤としたアプローチです。行動の主体はあくまでコミュニティの人々。障がいのある人や難民にとって、水や食料などのサービスや支援へのアクセスの障壁となっている要因を取り除くために、コミュニティが行う活動を後押ししています。また、障がいのある難民の子どもたちが平等に学びの機会を得ることができるよう、車いすなどの補助器具のサポ―トの仕方などについて、学校の教員に対するトレーニングも行っています。
■難民キャンプは障がい者にとっては暮らしにくい場所か
難民キャンプにはすべての人にとってさまざまな困難がありますが、特に障がいのある人にとっては困難な環境です。一時的な居住場所であるため、通常は車いすのための道や斜面の舗装などのインフラ整備の長期的な計画はありません。下水設備や排水溝がむき出しになっていることもあります。また、障がいのある人は難民キャンプの主要な情報へのアクセスがないことも多い。通常はコミュニティのリーダーを通じて、また中心部で拡散されますが、そのような情報が入手できる場所に行くのも容易ではありません。ですので、障がいのある人たちにとっては、特に快適でない環境と言わざるを得ません。
■難民の3分の2が暮らす都市での環境はどうか
都市での生活も過酷です。難民は都市の中でも貧しい地域に住んでいることが多く、移動や生計の手段へのアクセスも十分にありません。コミュニティを基盤としたアプローチは都市でも使われており、教育や生計向上のための支援、たとえば、能力強化、職業訓練、補助器具などの支援、移動に関する追加費用を賄うための現金給付などが行われています。障がい者に対するサービスが整備されている都市部では、その地域のネットワークや団体との関係構築も難民にとってはカギとなります。
■障がいのある難民の支援におけるUNHCRと地元の関連団体との連携は
UNHCRは難民を含めて、障がい者が社会の変化の中心的役割を果たすと考えています。そこで、国際障害同盟(International Disability Alliance = IDA)との連携による難民支援にも力を入れています。その一例として2020年、ラテンアメリカ障害者・家族団体ネットワークは障がいのある難民に対して、新型コロナウイルス対応、ジェンダーに基づく暴力への対策に関する情報をまとめました。また、今年には域内のUNHCRなどの団体と連携し、アメリカ大陸で障がいのある難民が直面する課題についての調査報告を発表しました。UNHCR特別サポーターのヌジーン・ムスタファやパラリンピック難民選手団でもあるアバス・カリミは、障がいのある難民を代表して啓発活動に取り組んでいます。
■最後にスポーツが果たす役割とは
まず、スポーツへのアクセスや参加は、障害者権利条約のもと、難民を含めて誰もが保障されるべき権利です。
スポーツは難民が避難先で居場所を見つけ、地元の人と関係を築き、平和的共存を促進する役割を果たします。また、スポーツは心と体の健康にもつながり、人生に必要なスキルや目標に進むための自信を付けることもできます。パラリンピック難民選手団の6人の代表は、自分たちが一番好きなこと通じて、それぞれの壁を打ち破っています。スポーツとの関わりは、世界を変える道を切りひらくのです。
パラリンピック難民選手団が開会式で一番最初に入場したことは、まさにその象徴といえます。難民を含めた世界中のすべての障がい者を代表して、障がいの有無にかかわらず、誰もが同じ場に立てることを証明しました。パラリンピック難民選手団の応援と同様に、世界中の皆さんが社会のさまざまな場で、難民のインクルージョンの実現に向けて難民支援の輪に加わってくださることを願っています。
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