2019年10月7日、スイス・ジュネーブで「ナンセン難民賞」の受賞式が行われました。
難民支援に多大な貢献を果たした個人・団体に贈られる「ナンセン難民賞」。2019年の受賞者に選ばれたのは、中央アジア・キルギスの無国籍問題に取り組んできた弁護士、アジズベク・アシュロフ氏です。
アシュロフ氏は、「フェルガナ渓谷国境なき弁護士団(FVLWB: Ferghana Valley Lawyers Without Borders)」の代表。ソ連崩壊後に無国籍となった人々が国籍を取得できるよう、これまで1万人以上を支援してきました。
今回の受賞に対して、フィリッポ・グランディ国連難民高等弁務官は「アシュロフ氏が取り組んできたことは、個人の決意と粘り強さが大きな貢献につながることを証明した。無国籍の根本的原因に迫った地道な取り組みは、キルギス政府をはじめ、国内のさまざまなアクターとの連携で成し遂げられた難民支援の素晴らしい事例」とコメントを寄せています。
かつて中央アジアを含むソ連加盟国は、域内での移動や居住、婚姻の自由などの権利が認められていました。しかし1991年のソ連崩壊後、新しく国境が引かれ、有効でない旧ソ連のパスポートしか持たず、出生地を証明できない人が出てきました。このようにして、この地域で何十万もの人が無国籍になったのです。
アシュロフ氏の活動の背景には、自身の家族が直面してきた現実があります。アシュロフ氏の家族も、ソ連崩壊の影響を受けてウズベキスタンからキルギスに移ってきた際、国籍を得るまでに多大な苦労を強いられました。「法律の教育を受け、弁護士である私でも容易でなかった。普通の人にとってはどんなに困難なことでしょうか」。2003年にFVLWBの設立メンバーとなり無償の法律相談サービスを始め、2007年から無国籍問題に本格的に取り組んできました。
「正義に反することを目にするとじっとしていられない」というアシュロフ氏。「無国籍がまさにそう。どの国からも認められていない、公的な書類に記載もなく、幽霊のように扱われている。でも彼らは確かに、そこに存在するのです」
2014年からはUNHCRの支援を受けて、地方の遠隔地の人たちにも支援を届けることができるよう出張法律サービスを開始。山に囲まれた村々を四輪駆動車や馬に乗って駆け回りました。
「私たちは彼らに国籍を与えるのではありません。生まれたときに持っておくべきだった権利を返すのです」
1日10数件、キルギス当局と密接に連携しながら取り組んだ結果、ついに今年の7月、アシュロフ氏とFVLWBチームは、国内で把握されている最後の無国籍のケースを解決へと導きました。
UNHCRは2014年から、2024年までに無国籍を根絶することを目指して「#IBelongキャンペーン」を実施しています。アシュロフ氏のチームが成し得た偉業は、世界で国籍を持たない人たちの“希望の象徴”です。
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