■ 背景
UNHCR は、これまで国連機関の一つとして、各国政府やNGOと協力し、国際的な人道援助活動と難民問題の解決に努めてきました。しかし、これら関係諸国・諸機関の努力にもかかわらず、難民問題などの人道緊急事態はアジア・太平洋を含む世界各地で増加の一途をたどり、その状況も複雑化しています。また人道援助活動が難しさを増すにつれ、本格的な訓練の場を求める声がNGOなどの関連団体から高まっています。
このような状況を踏まえ、UNHCRは2000年夏、日本政府が国連に設立した「人間の安全保障基金」からの支援の下、人道援助活動のための訓練センター「国際人道援助緊急事態対応訓練地域センター(eセンター)」を設立しました。日本は以降、eセンターの運営に対する資金協力を続けています。
■ 目的
eセンターは、人道緊急事態に対応するための訓練を提供すると同時に、ワークショップなどを通じて、アジア・太平洋地域内外の人道活動団体間にネットワークを構築することを目指しています。UNHCRと協力関係にある人道支援団体が緊急事態への準備と対応、保護、安全、セキュリティに関わる活動における能力を強化し、人道的緊急事態において諸機関や団体間の協力を促進し緊急時に連携できれば、アジア・太平洋のどの地域で問題が起こっても迅速で、きめの細かい現場対応が可能となります。これがeセンターの目指す「ネットワーク化による人道緊急事態への備え」です。
緒方貞子 元国連難民高等弁務官からのメッセージ
「日本人はどのぐらい人道援助に役に立っているのか」という質問を日本でよく受けます。高等弁務官に就任した時に私は「日本に人道大国になって欲しい」と申しました。それでは今「日本は人道大国となったか」と聞かれたら、「そうです」とは言いきれません。人道的な形で日本が世界に貢献する余地はまだ非常に大きい。では日本人が積極的に人道援助に参加できるようにするにはどうしたらよいだろうか、と考えてeセンターを設立しました。
「日本は顔の見える人道援助をする必要がある」とよく言われます。ですが顔を見せるには、現場に行かなくてはいけません。日本のNGOも育ってきていますが、規模も小さく、専門性の上でもまだまだだと思います。そこでNGOや個人を対象として緊急事態に対応する技術的・専門的な研修を行えば、日本人が人道支援に関する事業でさらに世界的な役に立つためのひとつの手立てになると考えたのです。(eセンター設立当時コメント引用)
■ 役割
eセンターはアジア太平洋地域において、各国政府やNGOを対象とした、緊急事態に備えた能力に特化した唯一のプラットフォームとしての役割を果たしています。
主な役割:
1. アジア太平洋地域における訓練を通じて、緊急事態への備えと対応能力を強化する
2. アジア太平洋地域のUNHCR、UNHCRのパートナー団体などが必要とする技術支援を行う
3. 緊急支援時の整においてUNHCRが貢献できるよう、地域における緊急事態への備えと対応体制を強化する
■ 訓練内容
eセンターは、日本を含めたアジア地域で開催される対面での訓練と、インターネットを利用した訓練を提供しています。国際的な人道支援活動を想定していることから、すべての訓練が英語で実施されます。
■ 主なコースの紹介
- Basics of International Humanitarian Response(国際的人道対応の基礎)
武力紛争、人権侵害、自然災害などによる人道的緊急事態への備え及び対応段階における現在の国際基準とアプローチを包括的に紹介します。参加者はロールプレイやグループワークを通して、実践的なスキルをインタラクティブで参加型のアプローチで身につけます。自分自身の能力を自覚し、既存のアプローチをよりよく理解する機会し、求められる緊急対応能力の強化と多様なパートナーとの連携を目指します。
- Security Risk Management(安全リスク管理)
管理職やシニアレベルの人道支援者に適した訓練を提供します。人道支援の現場で効果的にセキュリティ上の脅威と危険を識別し、適切に対応する方法を学びます。現場での基礎的な個人レベルのセキュリティに加えて、安全管理システムツール、複雑なセキュリティ環境下でのコンティンジェンシープラン、セキュリティ・保護・備えについて取り上げます。
- Essentials Humanitarian Negotiation(人道支援における交渉の基礎)
NGO、政府、国連機関などに所属し、様々なレベルで緊急事態に対応する人道支援者が必要とする交渉の手法をを学びます。交渉の相手は、政府関係者や武装勢力を含む非国家主体、協力機関、支援対象の住民などが想定されています。参加者は、アクセス・保護・権利の尊重、人道スペースが侵害されうる状況において求められる特定の知識・手法について学び、対応力を強化し、支援する住民や所属団体の立場が守られることを目指します。
■ アフリカeセンター
アジア・太平洋地域のeセンターの経験にならって、アフリカの人道危機に備え、対応する現地の人道支援従事者の能力強化の一環として、UNHCRは日本の協力を得て、2024年に新たな訓練プラットフォーム「アフリカeセンター」を立ち上げました。
緊急事態における人道交渉、緊急事態への準備、対応の3つのテーマに焦点を当て、ワークショップとオンラインセッションを通じて、現地当局と非政府組織を対象に英語とフランス語で訓練を提供しています。
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