シリア、南スーダン、南アメリカの難民の子どもたちの絵を集めた『紛争・迫害の犠牲になる難民の子どもたち』(合同出版)。UNHCRが2019年にイギリスの児童書出版社と出版した『Forced To Flee: Refugee Children Drawing On Their Experiences』の翻訳本として今年はじめに出版されました。
翻訳家の櫛田理絵さんのインタビューに続き、今回は編集を担当された合同出版の上村ふきさんにお話を伺いました。
■ なぜ日本語版を制作することになったのですか?
世界各地で難民支援を行う国連機関であるUNHCRが、難民のノンフィクション本を10代の子どもたちを対象に制作したという点がとても魅力的でした。たくさんの写真と絵が入った構成になっていたので、日本の子どもたち向けに難民を知る入門絵本にしたいと思いました。
■ 初めて原書を読んだ時の感想は?
3つの地域の人道危機と難民の様子が地図と写真で紹介されていて、「難民と移民の違い」「国内避難民」「無国籍」といった専門的な言葉も、やさしく理解できる本だと思いました。
難民の子どもたちの目線で見た紛争や迫害、そして難民になるとはどういうことなのかなどが、子どもたちの絵から痛いほど伝わってきました。
また、解説部分のUNHCRの活動の歴史もとても興味深く、日本の子どもたちが難民問題や一人ひとりができる支援を考えるうえで大切な要素であると感じました。
■ 編集で苦労した点、工夫した点はありますか?
著者(原文)の思いや言い回し、表現を大切にしながらも、日本語で読んだときに小学校高学年でも理解しやすいように、訳者の櫛田さんと丁寧に調整・校正を行いました。例えば、1文を2文に分けたり、専門的な用語や難しい言葉には日本語で補足したりしています。また、UNHCR駐日事務所にも確認・校正いただき、子ども向けの本ながら、難民のことをしっかり理解できる一冊になったと思います。
そして、写真やイラストがたくさんある本なので、見た目もきれいな仕上がりになるよう、制作の担当者、印刷会社の担当者と何度も写真やイラストの色味を調整しました。結果、とても良い仕上がりになったと思います。
表紙についてもこだわりました。ひと目で難民の本だとわかるように、原書と違ったデザインにし、子どもたちの写真を使いました。
■ 特に印象に残っている部分はありますか?
子どもたちが描いた絵と言葉には、紛争や迫害の過酷さが描かれています。
「目の前で人が殺される」「家を燃やされる」「ミサイルを落とされる」といった体験をしている10代の子どもたちには、こころのケアや精神的サポートがとても必要だと思いました。
一方で、どんな状況でも懸命に生きる姿は、編集作業をするにあたって何度も励まされました。さまざまな不安・困難を抱えながらも、将来の夢をあきらめず前に進もうとする姿には、無限のエネルギーを感じました。
■ 日本でどのような人に読んでほしいですか?
この本に登場する子どもたちと同じ、10代の人たちに読んでもらえたらうれしいです。
紛争や迫害は、その時(瞬間)だけではなく、その前後の生活にも大きな影響をおよぼします。「生き延びられたから」「避難できたから」といって、学校に通えるわけでも、家族と再会できるわけでもありません。難民の子どもたちにも、私たちと同じように一人ひとりの物語があり、たくさんの体験があります。
今も世界には、過酷な状況に追い込まれている人がいることをまずは知ってください。知ることが、とても大きな一歩になると思います。
そして、大人の都合でつらい思いをする子どもたちがいなくなるよう、まずは大人の私たちが伝えていくことも大切だと思います。どうか、子どもたちに「知ることがとても大きな力になること」を伝えてあげてください。