ウクライナ東部のコンタクトラインからわずか200メートルの村。ここにナタリア*(67)は一人で暮らしています。
この地域の武力紛争は、もう7年近くも続いています。2020年7月の停戦後、少し進展はありましたが、いまだ続く爆撃により市民の暮らしが被害を受けることもあります。ナタリアの家も例外ではありません。
5人子どもがいる息子も含めて、多くの人たちは安全な場所に移りました。しかし、国内の別の地域で自活するのも簡単なことではありません。
ナタリアはこの地域にとどまり、捨てられた動物たちを見守り続けています。ペットを連れていくことができず、残していかなくてはならなかった人たちが多くいるからです。猫15匹犬4匹の面倒をみているナタリアは、新しい飼い主も見つける手助けもしています。
「私はここを離れたくないのです。息子夫婦は生活が厳しいですし、さらに負担をかけたくもない。私の願いはただ、たくさんの良い思い出がつまった自分の家で暮らすことです」
定年前、ナタリアは地元の駅で働いていました。自由な時間には、地域のアマチュアグループでバレーダンサーとして踊っていました。定年してから、月にわずか約80米ドルの年金を国から受け取って生活しています。これで必要な医療費はほぼ賄うことができるといいます。
冬の間、ナタリアをひどく悩ませてきたのは、壊れてしまった家の窓です。2014年と15年、この地域で紛争が激化していた時、手りゅう弾による爆風のため建物の窓は粉々に割れました。きちんとした窓に取り換える余裕がなく、ナタリアは複合板を使って穴をふさぐしかありませんでした。冬の間、ただ寒さに震えていたのです。
しかしこの冬、UNHCRの支援を通じてナタリアのアパートには新しい窓が取り付けられました。「誰か助けてくれるとは思ってなかった。家はすごくあたたかくなって体調も良い。これは奇跡です。本当に感謝しています」。
この取り組みは、日本政府からの支援を受けて行われています。UNHCRはパートナー団体のNGOと連携し、特に支援のニーズの高い28世帯を調査し、地元の業者による修繕のため現金給付を行いました。計47人がこの支援の恩恵を受け、極寒の冬から身を守るため、きちんとした窓を取り付けることができました。
この村に住む2人の子どもを持つ夫婦も、自分たちのアパートが損傷しました。セントラルヒーティグが機能しなくなり、配管も凍結で壊れてしまいました。小さなストーブで暖を取っていましたが、きちんとした窓なしでは安全な温度を保つのは難しかったといいます。「コロナ禍の自粛で、2人の息子は自宅学習になりました。子どもたちが病気にならないよう、家をあたたかくすることはとても重要でした、ドナーのサポートに感謝しています」。
アパートの窓が壊れ、窓枠を変える余裕がなかった67歳の一人暮らしの女性は、「寒い季節になると気温はマイナス20度にもなり、命にも関わります。ベニヤ板、カーペット、毛布、枕、ゴムのシートなどで直していましたが、十分ではありませんでした。窓が新しくなったので、この冬も暮らしていけます」と話します。
2020年、日本政府からの支援を受けて、UNHCRはコンタクトライン近くで暮らす紛争の影響を受けた170以上の家をNGOと協力して修繕しました。
*難民保護のため仮名を使用しています。
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