今年5月からUNHCR駐日事務所で働き始めました。主に日本国内で生活している難民や難民申請者のコミュニティをより強化するための仕事をしています。具体的にはまず、難民の年令、性別、異なる背景等に留意しながら聴き取り調査(「AGDM参加型合同調査(注1) 」)を行ない、難民の直面している現状を把握、課題の特定を行います。そしてその聴き取り内容をもとに日本国内にいる難民のコミュニティ、難民を受け入れている自治体、難民支援をしているNGO、それぞれが連携する上でのお手伝いをしています。またRHEP (難民高等教育プログラム)(注2)の選考における事務的なサポートもおこなっています。
UNHCRで働く以前はネパール、トルコ、ハイチなど支援を必要としている場所へ単身で赴き、自分が出来る活動を行って来ました。やりがいを感じる一方で、個人で活動することの限界を感じる時もありました。特に被災地での国際機関の活動とその影響力は個人と比べると多大です。大きな組織だからこそ出来ること、そこから学べることがあると思いました。
(注1)AGDM参加型合同調査とは、難民、難民申請者の方々を対象にした調査です。「AGDM」とはAge(年齢) Gender(ジェンダー)Diversity (多様性)Mainstreaming(主流化)の頭文字をとったものです。難民の人々が直面する課題は年齢、ジェンダー、難民をとりまく身体的、社会的、文化的環境によって立ち現れ、それぞれ異なった解決策が必要になってくるという認識のもと、世界各地でこの聞き取り調査が行なわれています。
(注2)RHEP(難民高等教育プログラム)とは、高等教育へアクセスのない難民に対して大学における4年間の学部教育の機会を提供するプログラムで、関西学院大学 、青山学院大学 、および明治大学が実施しています。日本に住む難民が、教養と専門性を身に付け、将来日本や母国、また国際社会において平和の構築や社会の発展に貢献する人材を育成することをめざしています。
なにより難民支援をしている日本のNGOや関連団体の力に感銘を受けました。皆さん本当に難民に寄り添って活動されています!また組織に属していなくても、日常生活の中で難民と深く関わり、あたたかいサポートを続けている日本人がいます。ボランティアとして病院に付き添ったり、隣人として日常生活をサポートしたりと関わり方は様々です。難民の人達の間で「お母さん」と呼ばれている日本人もいます。難民や難民申請者が身近に頼ったり相談出来る人の存在はとても大きいと感じます。
やはり「ありがとう」と言われる時です。例えば、難民にとって大事な情報を自分が間に入って伝えることによって難民のコミュニティに周知され、活用してもらえたと知った時などは役に立った事が嬉しく、やりがいを感じます。
またRHEP(難民高等教育プログラム)はまさに人生が変わる瞬間に立ち会うようなもので、大変重要だと感じています。教育を受けることによって生きる上での選択肢と可能性が大きく広がると思います。私自身「高校卒業、専門学校卒業」という肩書きで社会へ出た経験があり、仕事を探したり働く上で偏見や困難を身をもって体験しました。だからこそこのプログラムの意義と、関われることへの喜びを感じます。
私は9歳のときに母を亡くしましたが、母は大事なことを沢山教えてくれました。「世界に共通する言葉って何?英語を勉強したとしても、全ての国で伝わるわけではないでしょう」と私が質問した時、母が言ったのは「笑い声は世界共通の言葉」でした。この教えのおかげで、たとえ言葉がわからなくても常に笑顔でいようと心掛け、すぐに人と打ち解けられるようになりました。
難民一人ひとり違う背景、違う体験を持って日本に来ています。難民の人が背負っているものと自分を重ね合わせたとき、自分がどこまで相手を理解できるかという壁にぶつかります。でもそこで考えることをやめてしまったり、一方的に何かを与えようとするのではなく、「何が一緒に出来るか」を常に考えて行きたいと思います。また、日本で辛い思いをしている難民には寄り添って、負担を軽くするお手伝いをしたいです。自分が出来ることと、相手が出来ることを一緒に力を合わせてやって行くことが大切だと考えています。これからも自然体で、自分が必要と感じた活動には積極的に取り組んで行きたいです。
<プロフィール>
福岡県出身。高校在学中にトルコ大地震の被災地でボランティアを行う。製菓専門学校レコールバンタン卒業、ネパールでの学校建設・運営の支援に携わり、中国やハイチの地震被災地などでもボランティア活動を行ってきた。社会人経験を経て、早稲田大学国際教養学部、北京大学国際関係学院留学を経て、東京大学大学院「人間の安全保障プログラム」修士課程に進学。今年5月から現職。