執行委員会は、
- 他国に庇護または恒久的再定住を求めるため、すでに保護を受けている国から不正規に移動する難民(正式に難民と認定されている者か、認定されていない者、すなわち庇護希望者であるかを問わない。)の現象がしだいに大きな関心事になっている。この懸念が生ずるのは、難民に適切な解決策を提供しようとする組織化された国際的活動がこの種の不正規な移動によって不安定化されるからである。こうした不正規な移動には、国家機関の事前の同意もしくは入国査証なしに、旅行のために通例要求される文書をまったくもしくは不十分にしか所持せずに、または、偽造のもしくは不正な文書を所持して他国の領域に入ることが含まれる。同じように懸念されるのは、難民または庇護希望者が到達した国の当局の判断を誤らせるため、故意に自己の文書を破棄または処分する事件が増加していることである。
- ある国で既に保護を受けている難民および庇護希望者の不正規な移動の大部分は、教育および雇用の機会を得られないため、ならびに、自主帰還、庇護国での定住および再定住による恒久的解決を得られないため、移動せざるをえないと感じている者から成る。
- そのような不正規移動の現象には、UNHCRと協議のうえ、次のことを目的とする各国政府の一致した行動を通してのみ効果的に対処しうる。
- いずれの難民状況においても、不正規移動の原因および規模を特定すること、
- 庇護の付与および維持、ならびに、必要な恒久的解決またはその他の適切な支援措置の提供により、問題となる不正規移動の原因を除去しまたは軽減すること、
- 関係各国において難民の確定のため適切な措置がとられるよう奨励すること、および、
- 自己のおかれている状況が不確実なため、ある国から他国へ不正規に移動せざるをえないと感じている難民および庇護希望者に対する人道的取扱いを確保すること。
- この枠組みの中で、各国政府は、UNHCRと密接に協力して次のことを行うべきである。
- 恒久的解決策が確定するまでの間、保護を受けている国において難民および庇護希望者の介護および支援のため適切な措置がとられるよう促すことに努めること、および
- 第一に自主帰還、それが不可能な場合には庇護国での定住および適切な再定住の機会の提供に特に重点をおいて、適切な恒久的解決を促進すること
- 特定の国において保護を受けている難民および庇護希望者は、通常は、他国に恒久的解決を見出すため当該国から不正規に移動すべきでなく、上記c)およびd)において勧告されている各国政府およびUNHCRの行動により当該国において利用可能となっている恒久的解決を利用すべきである。
- それにもかかわらず、保護を受けていた国から不正規に移動した難民および庇護希望者は、次の場合に当該国に送還することができる。
- 当該国において強制送還から保護される場合、および
- 恒久的解決が見出されるまでの間、当該国に滞在し、および、最低限の
人道的基準に従って取扱われることが認められている場合。そのような国への送還が意図されているときには、当人の再入国および受入れのための措置を支援するようUNHCRに要請することができる。
- 難民または庇護希望者が、以前に保護を受けていた国において迫害を恐れる理由があるかまたは身体の安全および自由が危険にさらされることを正当に主張できる例外的な場合がありうることが認められる。そのような場合には、庇護を求めた国の機関によって好意的な配慮がなされるべきである。
- 不正規な移動の問題は、到達した国の機関の判断を誤らせるため、不正な文書を使用したり、旅行証明書またはその他の文書を故意に破棄しもしくは処分する難民および庇護希望者が増加していることから、一層深刻になっている。これらの行為は、当人の同一性の確認、到達する前に滞在していた国の確定、ならびに、当該国における滞在の性質および滞在期間の確定を困難にする。この種の行為は不正なものであり、当人の主張を弱める場合がある。
- 難民または庇護希望者が、身体の安全または自由が危険にさらされている国を離れようとするときに不正な文書に頼らざるをえない場合があることが認められる。そのようなやむを得ない事情が存在しない場合には、不正な文書の使用は正当化されない。
- 難民および庇護希望者が、目的国への到達に際して、以前に保護を受けていた他国における滞在について国家機関の判断を誤らせるため、故意に旅行証明書およびその他の文書を破棄しまたは処分することは、受け容れられない。各国は、この深刻化する事態に対処するため、個別にまたは他国と協力して、適切な措置をとるべきである。
*1国連総会文書No.12A(A/44/12/Add.1)に含まれている。
この結論に対する解釈宣言および留保に関しては、A/AC.96/737 partN,p.23を参照のこと。