目標1 難民条約と議定書の実施強化

1.すべての国による難民条約と議定書の締結


  • UNHCRは、難民条約と議定書の締結またはその実施にあたり各国が直面する諸問題の克服を支援するため、必要な調査を実施する。
  • 締約国は、すべての国による難民条約と議定書の締結の実現を目指してUNHCRが現在行っている締結推進キャンペーンに積極的に貢献する。
  • 締約国および地域機関は、二国間および多国間の接触の場において締結の奨励を行い、そうした発議についてUNHCRに通報する。
  • 締約国は、締結の際に付された留保の撤回を検討するとともに、適当な場合には、地理的制限の撤回に向けて尽力する。
  • 締約国は、国内法制度にしたがって必要とされる場合には、難民条約の基本原則が国内法に編入されることを確保する。

2.庇護手続きの改善


  • 各国は、国家間の慣行のいっそうの調和を推進するために、高等弁務官行動計画執行委員会(UNHCR執行委員会/ExCom)を通じて、過去に推奨されていた庇護手続きの枠組みに関する執行委員会指針の改定を検討する。5
  • 各国は、庇護希望者に手続きへのアクセスを付与するとともに、自国の庇護制度の効果的で公正な意思決定を確保する。この意思決定は、迅速に行われ、かつ強制力によって担保されねばならず、国際的な保護を必要としないと見なされる者の送還および出身国への再入国に関しても適用される。送還は、庇護手続きの濫用阻止に資するとともに、庇護制度の保全にとっても重要である。6
  • 庇護手続きを有しない国は、UNHCRの支援およびUNHCR執行委員会の指針を利用しながら庇護手続きの法制化と設置を行う。確立した庇護手続きを有する国は、こうしたイニシアチブに対して、有形の国際協力として、必要に応じた資金拠出および技術協力も含め、最善の方法による支援を提供することを検討する。7
  • 各国は、家族統合の原則に相応の配慮をするとともに、「児童の権利条約」および「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」ならびにUNHCRの関係ガイドラインの要件に留意しながら、ジェンダーおよび年齢に配慮した保障措置を庇護手続きの中に導入し、必要に応じてこれを強化する。拷問の被害者あるいは障がいのある者などとりわけ弱い立場にある者の特別のニーズにも十分な配慮が払われなければならない。8
  • 各国とUNHCRは、難民女性と子どもの庇護申請においてジェンダーおよび年齢特有の問題(ジェンダーまたは年齢に関連した特有の形態の迫害を含む)が適切かつ敏感に配慮されることを確保する。
  • 各国とUNHCRは、保護者を伴っていない子どもと保護者から離別した子どもからの難民の地位の認定申請が増加している問題に対処するため、可能な限りUNHCR執行委員会を通じて協議を行う。
  • UNHCRは、UNHCR事務所規程上の難民(mandate refugees)の認定手続きの質および一貫性の世界的な向上を図るために、より多くの資源を投入するとともに、研修の充実化および組織内部の対応力強化を行う。

5 難民の地位の認定に関する結論第8号(XXVIII)(A/AC.96/549,para.53.6);明らかに根拠のない・濫用的な難民の地位・庇護申請の問題に関する結論第30号(XXXIV)1983(A/AC.96/631,para.97.2)を参照。
6 ゴール2、目的7を参照。
7 ゴール3、目的2を参照。
8 UNHCRの「ジェンダー(性差)を理由とする迫害に関するガイドライン」(HCR/GIP/02/01、2002年5月)、UNHCRの「難民女性の保護に関するガイドライン」(ジュネーブ1991年)、UNHCRの「難民女性に対する性的暴力」(ジュネーブ、1995年)およびUNHCRの「難民の子ども:保護および支援に関するガイドライン」(1994年)を参照。ゴール4および目的4も参照。

 

3.難民条約の適用対象外であるが、国際的保護を必要とする者に対する補完的な保護の提供


  • UNHCR執行委員会は、その権限内において、補完的な形態の保護にあたって適用されるべき一般原則、その受益者、そして難民条約その他の関連国際・地域法文書との両立性に関する指針を定める「結論」の作成作業を行う。
  • 各国は、先ず難民条約に基づく難民該当性の検討を行い、次いで必要かつ妥当な場合に、補完的な形態の保護を与える根拠について審査する、単一の手続きを設定することの有効性を検討する。

 

4.国際的な難民の保護に値しない者(テロ行為により有罪とされた者を含む)の適用除外


  • テロの撲滅は第一義的に刑事法執行上の問題であり、しかし同時に、庇護制度の濫用は阻止されなくてはならないことに鑑み、各国は、適切な法的保護手段を確保しながら、条約の適用除外条項を実施するための措置をとる。そうした措置には、次のようなものが含まれる。条約の適用除外条項を国内法の中に編入すること、移民・庇護当局、法執行当局および適切な場合にはUNHCRとがいっそう緊密な協力と情報交換をすること、申請者が難民条約第1条F項に該当する者であるとの疑いがある場合には、専門性を有する者による庇護申請の優先的な処理を行うことである。9
  • 各国は、適用除外手続きに服している個人の家族構成員によってなされた十分に理由のある難民の地位の申し立てを損なうことがないように適用除外条項を適用する。
  • UNHCRは、「適用除外に関するガイドライン」(1996年)を改正する。

9 適用除外条項を適用する場合には適宜、安全保障理事会のすべての関係文書を考慮すべきである。

 

5.難民条約と議定書の実施の監督に関する協力のいっそうの緊密化


  • 各国、UNHCRおよびNGOは、難民条約と議定書の実施を強化し、UNHCRによる国際難民文書の監督作業の円滑化を図り、UNHCRと締約国との間のいっそう良好な協力を確保するため現実的手段を見出すとともに、これに関する作業を行う。
  • この点に関して、そして「世界協議」プロセスの積極的な機運を維持するためにも、UNHCRは、保護の問題、台頭するグローバルなテーマと課題、そして具体的な保護を必要とする事態、特に緊急な性格の事態に関してハイレベルでの参加型対話のためのフォーラムを引き続き提供する。
  • この点に関して、各国は、女性と子どもに関する保護の問題に特別の関心を払い、常設委員会の定期会合において保護に関する自国の業績および問題に関するより多くの情報を提供する。

 

6.難民法の動向を踏まえ、難民条約のさらに調和された解釈を行う


  • UNHCRは、「世界協議」の一環で開催された専門家円卓会議の関連文書および総括的結論を発表する。
  • UNHCRは、適用可能な国際法的基準、国家慣行および先例を基に、また「世界協議」専門家円卓会議の議論も適宜踏まえ、『難民の地位の認定の基準および手続きに関する手引き(難民認定基準ハンドブック)』を補完するガイドラインを作成する。
  • UNHCRは、必要に応じて、各国の法律実務家の参加も得て、専門家会合を引き続き開催する。
  • UNHCRは、各国、地域機関、その他NGOおよび大学を含むパートナーが主催または実施する難民法関連の企画および研究に引き続き参加する。

 

7.さらなる基準設定


  • 国際難民保護レジームのさらなる発展について前述の「締約国宣言」が言及していることにも鑑み、UNHCRは「UNHCR執行委員会結論」あるいはその他の文書を含むさらなる基準設定が有益と思われる分野を検討する。

 

8.難民に対する敬意の醸成


  • 各国、UNHCRおよびその他の関係者は、下記の手段を通じて、難民に対する肯定的態度と敬意を醸成する。

◆ 政治指導者に難民条約と議定書の根底にある価値観の支持を奨励。

◆ 難民の境遇に対する市民社会の関心を向上させるために、UNHCRの作成した資料(例えば、「リスペクト」(Respect)や「ステレオタイプ」(Stereotypes)、「ランテルナ・マジカ」(Lanterna Magica)などのキャンペーンのために作成された資料)や教材(難民の子どもや十代の若者向けパンフレット、チラシ、および教師用ガイドを含めた教育用キット)などの社会的関心の向上のための資料の有効活用およびより広範な配布。

  • 各国は、難民の参加を得ながら、公共事業公告、スポーツ、音楽および娯楽のような教育手段をよりいっそう活用し、寛容、共存、共通の価値観ならびに異文化間の架け橋の醸成がもたらす効果について積極的なメッセージを伝える形で、難民の積極的な社会的および文化的貢献に焦点を当てた社会的関心の向上のためのプログラムを作成する。
  • 各国は、庇護希望者と難民に向けられる排他主義、人種差別や外国人排斥主義に対処する措置をとる。

 

9.適正な庇護希望者の処遇


  • UNHCR執行委員会は、国際的な法的基準に基づき、「UNHCR執行委員会結論」という形で、庇護希望者の処遇に関する政策の基本的な枠組みを採択することを検討する。
  • UNHCRは、ジェンダーおよび年齢特有の諸問題、ならびに拷問・暴力の被害者、障がいのある者あるいは特殊な医療を必要とする人々に十分配慮しながら、『庇護希望者の処遇に関するガイドライン』を作成する。
  • UNHCRは、庇護希望者の処遇を監視(monitoring)し、各地域の保護状況についてUNHCR執行委員会に報告を提出するにあたっては、庇護希望者の直面する諸問題および勧告を含める。
  • 各国は、いっそうの共同歩調を通じて、庇護希望者と難民の拘禁に代わる他の措置を検討する。原則として子どもの拘禁は控える。
  • 各国、UNHCR、NGOとその他のパートナーは、難民のコミュニティの協力を得て保護者を伴っていない、または保護者から離別した子どもの庇護希望者・難民に対応する。その中には必要に応じ、子どもたちを一時的に里親家族に預けること、あるいは国家もしくは国家以外の後見人を任命すること、そしてそのような措置を監視することを含む。

 

10.難民の大量流入に対するさらに効果的かつ予測可能な対応


  • UNHCRは、各国の見解を考慮しつつ、大量の難民流入の場合における保護対策について包括的な研究を行い、UNHCRの経験から最も適切な実務を見極めること、また、難民条約と1969年のアフリカ統一機構(OAU)難民条約以外にも有権的な文書を作成する必要性について検討する。
  • UNHCRは、集団認定を受けた難民の中に適用除外の可能性を持つ個人がいた場合を考慮しその手続きを明確にするガイドラインを作成・配布する。
  • 各国およびUNHCRは、難民の大量流入における緊急対応策には、難民のコミュニティに基盤を置く活動も取り入れ、難民女性、難民の子どもと弱い立場にある者特有の保護のニーズに対応する。10
  • 潜在的な難民の大量流入に備え、国際社会からいっそう適切で時宜にかなった支援を確保するために、各国は、国連、特にUNHCRと協力しながら、事態の兆候を早めに察知し事前に対応策を検討するなどいっそう効果的な関与を推し進める。

10 これには、保護者から離別している子ども、障がいのある者、慢性病患者、独身女性、単親世帯、高齢者、拷問の被害者が含まれる。

 

11.難民の登録および記録作成の改善


  • 各国は、「難民および庇護希望者の登録に関する結論」第91号(LII)(2001年)を遵守するとともに、データの使用に関する機密保持の要請に留意し、女性および男性の難民ならびに庇護希望者が自国の領域に到着次第、それらの者の安全、不可欠なサービスを得る機会および移動の自由の改善に資するように、可能な限り迅速に全員を個別に登録し、文書記録に残す。
  • UNHCRは、各国と協力して、研修、機器および資材を含む財政的・技術的支援の提供を確保することにより、特に難民を受け入れている開発途上国が国の第一次的責任と認められている難民の登録および難民に対する文書の発給を行うことができるようにする。
  • 各国、UNHCRおよび関連するパートナーは、キャンプに滞留している難民の登録および自主的帰還のための登録に携わる者が、ジェンダーおよび年齢に配慮したインタビュー技法を含めた適切な研修を確実に受けられるようにする。
  • 各国およびその他の関連するパートナーは、人的資源を含む専門知識の提供により、UNHCRによる難民の登録および文書記録作成のための独自のシステムの改善努力を支援することを検討する。
  • UNHCRは、登録および難民集団のデータ管理に関する運用基準とガイドラインを発行し、1994年の『登録ガイド』を改訂し、登録およびデータ管理のトレーニングモジュールを開発する。さらに、UNHCRは、各国の既存の専門知識および人的資源を利用することを含め、現場での登録体制支援(方法論、システム、研修および支援ミッション)を強化する。
  • 各国とUNHCRは、難民・庇護希望者の登録と文書作成システムを向上させるために、生体認証を中心とする新しい技術・手法を導入するとともに、いっそう標準化された全世界的な登録システムを開発するため、これらの技術・手法を共有する。
  • 各国は、適宜UNHCRの支援と協力も得ながら、身分(例えば、出生、婚姻、離婚、死亡など)に関する必要な文書を提供する。
  • 各国、UNHCRおよびその他のパートナーは、登録データを使用し、必要に応じて適切な援助および保護措置を講ずる。例えば特別な保護の必要な女性、保護者に伴われていない子どもおよび保護者から離別している子ども、子どもが世帯主になっている世帯および単親の世帯、障がいのある難民、高齢者等が考えられる。

 

12.難民の発生の根本原因に対する確固たる対応


  • 各国は、武力紛争を含む根本原因への対処にいっそう高い優先順位を与え、政府間の関係議題がこの優先順位を確実に反映するようにする。
  • 各国は、自国の外交、安全保障、貿易、開発および投資の各政策において利用できる適切な手段をとり、人権、民主主義的価値観およびグッド・ガバナンスの必要性が難民発生国においていっそう尊重されるよう影響力を行使する。
  • 各国は、紛争防止、紛争解決、平和維持、平和構築の各分野における国連の任務を支援する。
  • 国際および地域人権機関ならびに開発機関は、人権侵害および集団間の紛争によって発生した難民流出事態に対するより直接的な影響力の行使を可能にする方法を検討するよう奨励される。特に、国内人権委員会の設立ならびに司法部門および警察機能の改善措置を実施する意思のある難民流出国に財政的・技術的支援を提供することが奨励される。
  • 各国は、1954年の「無国籍者の地位に関する条約」および1961年の「無国籍の減少に関する条約」への早期締結を目的とし、これらの条約の締結について新たな検討を行う。
  • UNHCRは、UNHCR執行委員会結論第78号(XLVI)(1995年)にしたがって、無国籍者を減少させ、無国籍者の保護の必要性を満たすために、各国のとった措置に関する情報を求め、執行委員会に対して本件調査に関する報告と状況の改善に役立つ勧告を提出する。
  • UNHCRは、その現地駐在代表を通じて難民の流出につながる状況の緩和を推し進める主体として適宜行動する。

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