2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees:GCR)の理念に基づき、日本では難民支援に携わるステークホルダー間での情報交換が活発に行われています。その一環としてスタートしたのが、J-FUN(日本UNHCR・NGO評議会 – Japan Forum for UNHCR and NGOs)のメンバーにより開催されているMSC(Multi-Stakeholder Consultation)勉強会」です。
第7回は「ロヒンギャ難⺠:終わらない危機を生きる人々を知りともに考える」。アジアで最大規模の人道危機の一つであるロヒンギャ危機について、その背景や歴史を理解するとともに、日本の政府や企業、市民社会のこれまでの取り組みや課題を共有し、それぞれが果たすべき役割について考えました。
冒頭のあいさつでは、UNHCR国会議員連盟のメンバーでもある山下貴司衆議院議員が「現在、世界で故郷を追われる人が1億人を超えている。第二次世界大戦後最悪の事態に直面するなかで、難民支援を強化していくことは必要不可欠」と話し、バングラデシュに約100万人が避難しているロヒンギャ難民については、日本がアジアの“リーダー”として取り組んでいかなければならないと強調しました。
続いて大橋正明 恵泉女学園大学名誉教授より、ロヒンギャが難民になった歴史的背景についての解説、最近自身で行った現地調査の結果も交えたバングラデシュをはじめアジア各地に避難したロヒンギャ難民の現状について報告がありました。
この数年のミャンマー国内の治安悪化もあり、ロヒンギャの故郷への帰還の見通しがつかないなかで、それぞれの避難先での医療、治安、教育、就労などの課題に対して、受け入れ国政府や各国のドナー、国際社会に対するアドボカシーを続けていくことが大切ではないかとのコメントがありました。
次に、外務省の堤太郎 南部アジア部 南⻄アジア課 課⻑から、日本政府がバングラデシュで実施してきたロヒンギャ難民支援についての発表がありました。日本にとってバングラデシュは「自由で開かれたインド太平洋」を実現するうえで重要なパートナーであり、2014年からは「包括的パートナーシップ」を通じてより一層の関係強化を進めてきたこと、UNHCRを含む他の機関と連携しながら、現場のニーズに応じた資金協力を続けてきたことなどが紹介され、将来の帰還を見据えた自立支援の重要性についても強調されました。
続いて、日本の企業とNGOから、バングラデシュのロヒンギャ難民に対して実施してきた取り組みについての紹介がありました。UNHCRとグローバルパートナーシップを結んでいるファーストリテイリングは、従来から実施している緊急支援などに加えて、昨年秋に新たにスタートしたロヒンギャ難民女性に対する布ナプキンの縫製トレーニングを紹介。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、ピースウィンズ・ジャパンからは、医療や教育、衛生、シェルター支援などについて共有があり、それぞれのステークホルダーの強みを生かした“社会全体での取り組み”が重要であることが再認識されました。
また、2006年に来日したロヒンギャのカディザ・ベコムさんは、自身が日本に来た経緯、UNHCRやファーストリテイリングの支援によってかなった大学進学と就労、今もなお困難に直面するロヒンギャの仲間たちの現状などについて話し、「“難民”といっても皆さんと同じ、何も変わらない一人の人間。一人ひとりの人権が守られる社会になってほしい」と訴えました。
2022年10月末にバングラデシュを視察したクリエイティブディレクターの辻愛沙子さんからは、現地で撮影した写真を投影しながら、難民キャンプ内の女性や少女たちとの対話やUNHCRの取り組みについての紹介があり、不安定な環境下で懸命に生きる人々の声に耳を傾けることが大切とのコメントがありました。
最後に、ジャパンプラットフォームの井出悦子さんより、日本のNGOが取り組んでいくべきこととして、難民と受け入れコミュニティ双方に対する支援を着実に行うとともに、バシャンチャール島に移った難民の状況の把握などもより積極的に進める必要があるなどの見解が共有されました。
2017年8月のロヒンギャの大規模避難から5年以上がたち、ロヒンギャの人道危機に対する国際社会からの関心が薄れてきているのも事実です。ロヒンギャ難民の存在を忘れることなく、一人ひとりの命と人権を守り、受け入れ先の負担を分担していくために、UNHCRは日本のステークホルダーとも連携しながら取り組みを進めていきます。