2018年12月末に国連総会で採択された「難民に関するグローバル・コンパクト」(Global Compact on Refugees:GCR)の理念に基づき、日本では難民支援に携わるステークホルダー間での情報交換が活発に行われています。
その一環としてスタートしたのが「MSC(Multi-Stakeholder Consultation)勉強会」。第6回を迎える今回の勉強会のタイトルは「現金給付支援:難⺠‧国内避難⺠中心の人道支援へ」。人道支援の現場で効果的な支援の一つとして注目が集まる「現金給付支援(Cash-Based Intervention:CBI)」の有効性や課題についての議論、情報交換を行いました。
現金給付支援とは、 “現金”や“バウチャー”などの形で、裨益者に支援を届けること。家賃や医療、その他必要な生活物資など、それぞれのニーズに合わせて使うことができ、地元経済の活性化への貢献も期待されています。今年2月以降ウクライナの緊急事態でも広く活用されている支援の形です(参考動画はこちら)。
MSC運営委員会のメンバーのピースウィンズ・ジャパンの齋藤 栄さんは冒頭のあいさつで、「現金給付を通じた支援は人道支援の現場で決してめずらしくなく、もはや世界の潮流になっている」と話しました。その一方で、日本国内のドナーや支援者の間での知名度は高くなく、その有効性が十分に広まっていないことから、この勉強会を通じて現場の取り組みを通じて伝え、理解促進につなげたいと伝えました。
最初に発表を行ったのは、UNHCRアジア太平洋地域局でシニアCBIオフィサーを務めるジェラウド・ドブレド。人道支援の現場で現金給付が使われ始めたのが、2004年に発生したスマトラ沖大地震・インド洋津波の時であり、被災地域が広範にわたり物資の供給が十分に行えなかったことから、被災者に対する支援のひとつとして現金給付が導入されたと紹介しました。以降、その有効性、効率性を確認するための調査、評価が続けられ、UNHCRの難民支援の現場でも重要性が高まってきたことなどが紹介されました。一方で、国によっては現金給付に必要な金融サービスが情勢不安により機能していないなど、実施が困難なケースもあるため、状況に応じて柔軟に検討していく必要があると話しました。
続いて、USAID 人道支援局在バンコク東アジア・太平洋地域チームのマイケル・マクパーランド地域アドバイザーにより、東アジア・太平洋地域でのUSAIDの支援事例の発表が行われました。昨年11月にフィリピンを直撃した台風の時には、約240万人が人道支援が必要とし、現地の生活インフラが壊滅状態にあったことから、最初の数週間は物資支援が優先とされたこと、市場など現地の機能が回復し始めてから、現金給付に移行していった事例を紹介しました。「災害や危機においては、なにが一番効果的な支援か、長期的な視点をもって検討することが大切」と話しました。
また裨益者を代表して、ヨルダンに避難しているシリア難民からビデオメッセージが届き、紛争で夫や妻を亡くし、避難先で子どもたちを育てるために試行錯誤していること、現金給付支援を通じて家賃や医療費、子どもの教育費などが支払えるようになり、未来への希望が見えてきたなどのコメントが紹介されました。
後半は、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンの福原 真澄 アジア・中東地域マネージャーが加わり、チャーチ・ワールド・サービス・ジャパンの小美野 剛 理事兼事務局長のモデレーターでパネルディスカッションが行われました。福原さんはNGOの支援現場での経験から「現金給付支援は、裨益者が自分が必要なものを選択でき、将来への投資として教育などにも使うことができる。一人ひとりの尊厳が守られる重要な支援の形」と強調。裨益者のニーズをいかに優先するか、現金給付の費用対効果、リスクマネジメント、ドナーに対する説明責任などの課題が挙げられ、緊急事態においていかに適切かつ迅速に判断するか、適切なタイミングで現金給付を実施するために、ステークホルダーやドナーの協力がさらに重要になってくることなど、4人のパネリストにより活発に意見交換が行われました。
最後に、UNHCR国会議員連盟の幹部メンバーでもある谷合正明参議院議員が「現金給付支援は国際協力に限った話でなく、世界各地の国内政治でも活用されており、コロナ禍では重要な支援メニューのひとつにもなっている」とコメント。今日の勉強会の議論を通じて「人道支援の選択肢として現金給付支援が評価できるものだと理解できた」とし、「現場の支援に携わる皆さんに現金給付のメリットデメリットをより広め、日本国内での理解増進に力を貸してほしい」と話しました。
今後もUNHCRはパートナー団体と連携しながら、故郷を追われた人々のニーズに応じて現金給付の効果的な活用に向けた取り組みを進めていくとともに、UNHCRの活動を支えるドナーへの理解も促していきます。