2021年、オリンピック・パラリンピックの年に開催された「ユース難民アートコンテスト」。今回のテーマは“スポーツを通じてひとつに”。世界各地で故郷を追われた人、困難に立ち向かいながら懸命にトレーニングに励む難民アスリートに想いを寄せ、約100カ国、1,600人を超えるユースからアート作品が集まりました(結果はこちら)。
日本からは約50作品の応募があり、静岡県在住の高校1年生、川村育穂さんのサッカーボールのデザインが特別賞を受賞しました。「将来、海外で仕事をしたいという夢があり、国際政治の授業を取って勉強しています。このような活動に関わることも、難民について知る一歩になると思いました」。
実は川村さん自身もアスリート。静岡を拠点とする女子ラグビーチーム、アザレア・セブンのアカデミーに所属しています。
このコンテストに参加するきっかけとなったのは、アザレア・セブンの先輩選手、冨田真紀子さんからの誘い。冨田さんも「静岡に引っ越してきた時、地域の外国人に対する対応で気になったことがありました。このコンテストについて聞いた時、そのことを思い出したんです」といいます。あの時感じた違和感に、自分でもなにかできることがあるのではないか―。せっかくなら、ラグビーという共通点がある仲間と一緒にできたら楽しいと思い、チームメイトに声をかけたといいます。
そして、冨田さんの呼び掛けで集まったのは、最年少の川村さんをはじめ、アザレア・セブンの林公美子さん、静岡ブルーレヴズ(旧:ヤマハ発動機ジュビロ)の日野 剛志さんと舟橋 諒将さん。「小学校の時に授業で世界の問題を知って募金を続けていたのですが、いつの間にかそういう機会もなくなって。でも、なにか行動を起こしたいという想いがずっと心の中にありました」と林さんは話します。社会に対して、そして世界に対して、アスリートとしてできることがあるはず―。その共通の想いで集まったメンバーでした。
同じ静岡を拠点とする両チームに所属しているものの、これまであまり交流がなかったという5人。コロナ禍で実際に集まることが難しかったため、やり取りはすべてオンラインでした。デザインを担当したのは絵が得意な舟橋さん。「一人ひとりがアイデアを持ち寄り、オンラインで集まって画面共有をしながら、iPadで描いていきました。ここをもっと大きくして、もっと赤くとか。大変でしたけど楽しかったです」。
5人が大切にしたのは、日本らしさ、静岡らしさ、そしてラグビーという共通点。富士山、日の丸、そして日本代表のロゴにも使われている桜・・・。一つひとつのモチーフを組み合わせ、かつ一体感が出るように、デザインを作っていきました。
さらに、「なにか意味のある漢字を入れられないかな」という日野さんのアイデアに5人が選んだのは「和」。世界をひとつの「和」として表現することで、世界各地で故郷を追われた人を救うUNHCRの活動にもつながると思ったからです。「和」の文字は、書道歴6年の川村さんが書きました。
世界中の誰が見ても日本発だと分かるデザイン。試行錯誤を経て完成した作品は、全員が納得のいくものでした。
「このメンバーと出会えたこと、一緒にひとつのことに取り組めたことがうれしかった」という川村さん。そして、応募から1カ月半後―。UNHCR本部から川村さんに一本のメールが届きました。「特別賞」受賞の知らせでした。「賞をいただけるなんて思ってもみなかったので、本当に驚きました」。ほかの4人にもすぐ報告して喜びを分かち合いました。当時のことを思い出して「本当にうれしかったよね」と5人で顔を見合わせます。
UNHCRが今回のコンテストを通じて広めたかった“スポーツのチカラ”。アスリートとして、それを日々実感している5人が込めたメッセージには説得力がありました。「15人でプレーするラグビーは、誰でもどこかはまるポジションがある、多様性のあるスポーツです。勝利に向かって全員がそれぞれの役割を果たし、ワンチームになる。ラグビーという共通点で、年齢や性別関係なく集まった5人でデザインしたということに意義があると思います」と日野さんは話します。
今回のコンテストが難民問題やUNHCRの活動について知るきっかけとなったという5人。これからもアンテナを張って、周りを巻き込みながら自分たちができることを探していきたいと話してくれました。
静岡のラグビーチームから生まれた日本オリジナルのサッカーボール。まさに“ワンチーム”で取り組んだデザインに込められた想いは、世界の難民の子どもたちの希望となって届いています。