「アフガニスタンの首都カブールで働いていたお店に武装集団が入り込み、命の危険を感じたこともあります」。アフガン難民のアーサラン*は、避難に伴う暴力や搾取の危険を身を持って知っています。
アーサランは安全を求めて国外に避難した時、一人で逃れてきた子どもたちを密輸業者がだましたり、虐待しているのを目の当たりにしました。庇護を求めてセルビアにたどり着いた彼は今、クルニャチャ(ベオグラード近郊)の受け入れ施設で、仲間たちに自分の経験から学んだ知識を伝えています。この先、きっと役に立つものだと思うからです。
アーサランが教えているのは3カ月16コマのコース。さまざまな国から逃れてきた受講生たちが、自分の権利、虐待の判別、支援の求め方などについて学びます。人身売買、搾取、差別、リプロダクティブ・ヘルスなどのトピックもあります。セルビアに一人で逃れてくる子どもの増加を受けて、UNHCRが2018年にデンマーク難民評議会(DRC)とパイロットプロジェクトとして始めた取り組みです。
コースを修了したらアーサランのように、今度はボランティアとして教える立場に。「私は昨年このコースに参加するまで、ジェンダーに基づく暴力、ジェンダーの基準、LGBTIの権利などについての知識もありませんでした」。19歳になったアーサランはそう話します。
自身も難民である講師の経験に基づいた事例は分かりやすく、より良いコースにしようと意見を出し合いながら、さまざまな工夫が行われています。同じような境遇の受講生同士でのディカッションも活発です。
2020年には保護者のいない子どもが約200人が逃れてきましたが、前年と比べるとその数は急激に減っており、新型コロナのパンデミックの影響もあるとみられています。その前までは増加が続き、大半はアフガニスタンから、次にシリアが続きます。多くの場合、セルビアは北欧を目指す難民の中継地点とみられてきましたが、状況は変わりつつあります。
このコースは若者たちが避難での経験を共有するだけでなく、さらなる移動に関するリスク、密輸業者による搾取や虐待などを周知する目的もあります。このようなリスク、セルビアにとどまるメリットは、実体験を通じてこそ語られるものです。従来、このタイプのコースは女児や若い世代の女性を対象としたものが多く、社会統合の促進のためには少年への啓発も大切だと考えられています。
クルド人のカロ(20)は4年前にイラクからセルビアに逃れ、2019年に難民認定を受けました。自分の経験を仲間に伝えるためにこのコースを受けた後、新たに避難してきた若者たちに避難を続けることのリスクを伝え、この国にとどまるよう説得しようとしています。「私はほぼ毎日、施設で仲間たちと話をします。どの国境を越えようとしても連れ戻される。この国にとどまれば、必要なサポートを受けることができるのだと」。
実際に、保護者がいない子どもが他国に移動せず、ここにとどまる割合は増えています。これは、セルビアでの取り組みに加え、さらなる移動をはばむ国境管理も理由に挙げられます。
「新型コロナウイルスのパンデミックは人身取引のリスクを増加させています。職を失い、経済的に困窮した若者は、脆弱な人々を無作為に搾取する密輸業者のターゲットになっているのです」
現在、アーサランは庇護申請の結果を待っています。その間、彼はペルシャ語、セルビア語のスキルを生かして通訳として働いています。「これからも働き続けたい。貿易について学んで、自分の足で立って生きていきたい。地元の合唱団に入ったり、映画に出演したりもしてみたいです」。
*難民保護に配慮し仮名を使用しています。
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