新型コロナウイルスの危機の中で、世界各地の若者の創造性を生かし、難民支援の輪を広げることを呼び掛けたUNHCRの「ユース難民アートコンテスト」。
世界約100カ国から2,000を超える応募があり、日本でも多くの若者たちが筆を取り、それぞれの想いが込もった約280作品が届きました。
日本から特別賞に選ばれた中司年音さん(23歳)に作品に込めたメッセージ、難民支援への想いを聞きました。
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これまで大学の授業やシンポジウムなどを通じて、難民やUNHCRの活動に強い関心を抱いてきました。難民の人々の多様性、「難民」の定義、「難民(refugee)」と「庇護申請者(asylum seeker)」の違いなどを学んでいくにつれて、この問題を議論することの難しさを感じてきました。そんな時「ユース難民アートコンテスト」のことをメーリングリストで知り、こうした複雑さを踏まえつつ、アートという形から難民問題に切り込んでみたいと思い応募を決めました。
私はステイホーム期間中に、「家」とは何か、あらためて考えました。
世界中で掲げられた“Stay Home”は、一見単純かつ確実な感染予防策のように思えます。しかし、安心して身を守ることが可能な環境の整った「家」が大前提となっており、誰もがその「家」を所持しているとは限らないのだということに気が付きました。
例えば、ある難民キャンプでは、水を得ることができるのは1日数時間のみで、手を洗うことさえままならないことをニュースで知りました。また、インフラが整っていても、家庭内での暴力といったあらゆる事情により、「家」で安心して過ごすことができない人々もいます。
私は自分の作品の中で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、より浮き彫りになった難民問題をはじめとする社会のあらゆるゆがみを「家」という切り口から描きました。
「家」の文字の周りには、社会のあらゆる人々を描きました。絵の中に登場する人々の肌の色や服装といった見た目をどのように描くかについては、とても悩みました。誰しもが他者に対してなんらかのステレオタイプを抱いていて、私もそうだったからです。中でも、難民の人々の描き方は、難民とはこういう人々であるというイメージを固定化させない表現をできる限り心がけました。私自身が持つステレオタイプに向き合いながらの制作でした。
新型コロナウイルスによって社会が混乱する中で、私自身、つい物事を近視眼的にとらえてしまうことが多々ありました。しかし、このような時だからこそ「家」の外、世界で何が起きているかについて、包括的に捉える視座が必要なのではないかという思いを作品に込めました。
難民問題に関するニュースなどを目にするたびに、私はこの問題にどのように関われるのか、これまで何度も考えてきました。しかし、難民問題は一個人の正義感だけで解決できるような生やさしい問題ではなく、また私自身の正義感自体にも疑問を感じるようになりました。
現在は、難民問題についての知識をより深めることによって、少しでもこの問題に関わることができればと思っています。無知ゆえの何気ない自分自身の発言が難民の人々に対する差別となり、難民の人々との共生を遠のかせてしまうといったような結果とならないために、今後も私は難民をめぐる問題を学び続けたいと思います。そして、難民というラベルに惑わされるのではなく、これは難民以前に人間の問題であるという意識を強く持ち続けたいです。
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