「お金は二の次。とにかくシリアの人々の助けになりたいのです」
イラク北部クルディスタン地域、エルビル郊外の大地に車を走らせるモハメド(33)。高齢のシリア難民の家を訪ねて回り、診療サービスを提供しています。「難民は交通費を払って病院に通うことは難しい。そこで思いついたのが訪問診療でした」。
実はモハメド自身も、2014年に家族とシリア北東部から逃れてきた難民。自分が避難先でも医師として働けるのは、エルビルが外から来た人々に開かれている証拠だと言います。
「この街は私たちを歓迎してくれました。居住許可も取りやすく、すべての人に働く権利が与えられています」
クルディスタン地域はシリアからイラクに逃れてきた大多数の250万人を受け入れており、その半分が経済活動の中心地であるエルビルでくらしています。これまで受け入れたシリア難民は12万人以上、国内避難民は60万人を超えています。
長年にわたってエルビルの知事を勤めるマウルッド知事は、「ここでは難民の就労に制限はなく、市民と同じ扱いです。シリアでさまざまな分野で活躍していた難民が新しい考えや文化を持ち込んでくれて、街はさらに発展しています」と話します。
モハメドは、これまで受けたどんな支援よりも、自分たちにとっては自由に働くことができる権利こそが意義があると強調します。世界では多くの難民が避難先で職を得られずアイデンティティや地位を失うなか、モハメドは自尊心をもって働き、家族を養うことができています。
「支援はモノだけではない。自由に移動し、働くことができるだけで、生きる力になります。仕事がなければシリアに戻らなければなりませんから」
難民というと“キャンプ”にいると思われがちですが、実は世界の2540万人の難民のうち6割が都市部に暮らしています。
世界各地の都市の役割が重視されるなか、エルビルはサンパウロやウィーンなど先駆的な難民受け入れを行っている好事例の一つで、ふるさとを離れた人たちが希望を持って社会の一員になれる機会を提供しています。
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