ベネズエラで生まれ育ったアルトゥロが、HIV/エイズに感染していると診断されたのは2000年のこと。投薬治療を続けている限り日常生活には問題なく、首都カラカスでヘアメイクアーティストとして働きながら、穏やかな生活を送っていました。
しかし情勢悪化に伴い、2年ほど前からベネズエラ全土で多くの薬の調達が難しくなってきました。HIV/エイズ患者に必要不可欠な抗レトロウイルス薬もそのひとつでした。
「薬が手に入らなくなり、不安でいっぱいになりました」
最初は知人の医師に頼んでもらっていましたが、次第にそれも難しくなりました。アルトゥロがペルーに逃れることを決意したのは半年前。すでに友人5人が同じ病で命を落としていました。
現在、300万人を超えるベネズエラ人がふるさとを離れることを余儀なくされていますが、うち数千万人が医療サービスの不足が原因だともいわれています。HIV/エイズ患者の多くは近隣のペルーやメキシコなどに避難していますが、南米諸国は地域として戦略的に、抗レトロウイルス薬の確保のための対策はとっていません。
たとえベネズエラから逃れても避難先で治療を受けられないと、感染が広がることが懸念されます。そこでUNHCRとUNAIDSは南米どの国でも適切に医療にアクセスできるよう、地域ネットワークの形成に向けて現地NGOを支援しています。
HIV/エイズに感染しているベネズエラ人は、ペルーでは特別滞在許可の申請ができます。しかしその条件として、健康診断書の提出と一定の治療を受ける必要があり、50米ドルほどの費用がかかります。
2017年にベネズエラで診断を受け医師の勧めでペルーに避難したウィリーは、感染を恐れがあるとシェルターを追い出されてしまった経験があります。しかしその後、UNHCRのパートナー団体の支援を通じて健康診断や治療を受けることができ、今は特別滞在許可の申請の準備を進めています。
アルトゥロもペルーで特別滞在許可を得て、定期的に治療を受けられるようになりました。1日8錠の薬を欠かさず、首都リマでヘアスタイリストとしての仕事も再開しました。
「ふるさとを離れて多くのものを失いました。でもペルーの人たちは、私たちに尊厳をもって接してくれます。だからここは安全だと感じるのです」と感謝しています。
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