目的
日本語版刊行にあたって
国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所は、この「難民保護への課題」(Agenda for Protection)を日本の皆さまにお届けできることを嬉しく思います。この「課題」は協同的な取り組みによって生まれたものであり、特に日本は、高等弁務官行動計画執行委員会(UNHCR執行委員会/ExCom)の一員として、積極的に作成に関わりました。「難民保護への課題」は政府や非政府組織(NGO)、またUNHCRのような国際機関による協力体制を実現するための手引きであり、さらには、日本の難民保護においても適用されるべき手段と基準を提供するものです。
難民保護における課題は多々ありますが、これらに取り組むことは、同時にチャンスでもあります。難民の保護は重荷ではなく、普遍的な価値のある、誇りとすべきものです。 私は、日本の皆さまが、各国との連帯の精神のもと、国際的な保護を必要とする人々のために協力し合うという目標に向かって一緒に歩んでくださることを確信しております。
2006年2月
UNHCR駐日事務所 代表
ロバート・ロビンソン
第9代 国連難民高等弁務官(2001年-2005年)からの挨拶
ルード・ルベルス 当事務所は、2000年の終わりに「難民の国際的保護に関する世界協議」(Global Consultations on International Protection)というプロセスを開始し、各国およびその他のパートナーとの間で難民保護について幅広い対話を行いました。その目的は、新しい問題に対処する柔軟性を保つと同時に、国際社会における既存の難民保護レジームをいかにして活性化させるか、その最善の方法を探ろうというものでした。このプロセスの最終的な成果が、2002年にUNHCR執行委員会により支持され、国連総会によって歓迎された、この「難民保護への課題」です。
2001年1月に高等弁務官に就任して以来、私は、難民を避難先で保護するだけでは不十分だとますます強く実感するようになってきました。難民に必要なのは、保護と同時に解決策です。したがってこの「課題」では、この二点を重視し、難民が尊厳をもって新しい生活をスタートできるようにするとともに、国際社会からの保護が不要となるような状況を作ることを強調しています。
今日の難民が置かれている状況は国際社会にかつてない大きな課題を投げかけ、難民に対する世界的な対応の改善が求められています。「課題」では、現実的で意欲的な方策を提案しています。現実的というのは、上記の「世界協議」において行われた幅広い対話により引き出された、難民保護問題に対する共通の理解および課題を反映しているからです。意欲的というのは、より良い難民保護のためには、多国間の協調を大幅に強化し、現在の保護状況とのギャップを埋める新しい実際的な措置を実現するよう共同で努力するしか方法がないという認識を示しているからです。現在の保護レジームを支え、法的・物理的両面から難民保護を強化するためにも、新しいアプローチ、手段、そして基準が必要となっています。
2001年12月にジュネーブで開催された締約国閣僚会合において採択された「締約国宣言」(Declaration of States Parties)、そしてこの「課題」でも認められているように、1951年の「難民の地位に関する条約」は引き続き国際難民保護レジームの基盤であるものの、これだけでは十分であるとは言えません。したがって「課題」では、条約を土台にして難民保護をどのように発展させていくかについて提示していることから、私はこれを「コンヴェンション(条約)・プラス」(Convention Plus) のアプローチと名付けました。
この「コンヴェンション・プラス」では、難民のための恒久的解決策を見出すため、北と南の国々が協力し合い、よりいっそうの負担の共有に必要な特別協定あるいは多国間取り決めの作成を目指します。これには、大量流出に対処するための包括的行動計画や「二次移動」に関する合意などが含まれ、これにより難民の出身国、経由国、そして最終目的地となるそれぞれの国の役割と責任がより明確にされます。また、難民の出身地域において、目標を絞った開発援助のための協定や、難民の第三国定住のための多国間での誓約も含まれます。
本書の発行は、「課題」を広く普及させ、関係諸国および諸機関を含むパートナーがそのフォロー・アップ活動に積極的に取り組めるようにという、UNHCR執行委員会からの要請に応えたものであり、このような活動は既に開始されています。UNHCRは、各国、国際機関、NGO、開発援助におけるパートナー、そして難民自身との継続的かつ、いっそうの協力体制により、今後、この「難民保護への課題」の実施が進められていくことを期待しています。
ルード・ルベルス
概要
各国政府、国際機関、非政府組織(NGO)、難民問題専門家および国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の間で18か月間にわたって行われた協議、「難民の国際的保護に関する世界協議」(Global Consultations on International Protection)を踏まえて、UNHCRと参加国は共同で「難民保護への課題」(Agenda for Protection)を採択した。この文書は、全世界の難民と庇護希望者の保護を向上させるための意欲的かつ現実的な行動計画であり、UNHCRのみならず各国政府、NGO、その他のパートナーの具体的な行動に関する指針となることを目的としている。
「課題」は法的拘束力こそ無いが、難民保護における一定の合意されたゴールを達成するために、具体的にどのような行動が可能であり、また求められているのかについての幅広いコンセンサスを反映しているという意味で、相当な政治的重要性をもっている。「課題」は、今日の難民保護に関する問題のすべてに対処しているわけではないが、多国間の貢献や協力が必要とされる分野や活動を重点的に取り扱っている。UNHCRの政策および運営計画の方向性・妥当性を確認すると同時に、「課題」は国際難民保護レジームを維持し、強化する上で、各国政府とパートナー組織にそれぞれの役割を果たすことを求めている。
「課題」は「締約国宣言」(Declaration of States Parties)と「行動計画」(Programme of Action)の2部構成になっている。「締約国宣言」は、2001年12月に開かれた1951年の「難民の地位に関する条約」(難民条約)と1967年の「難民の地位に関する議定書」(議定書)の締約国閣僚会合において採択されたものである。この宣言を採択することによって締約国は難民条約の有効性を再確認するとともに、同条約上の義務を果たすこと、ならびに、難民条約と議定書に盛り込まれた価値および原則を支持することを誓約した。「締約国宣言」は、実質的に、「行動計画」全体の土台となっている。
「行動計画」は、相互に関連する以下の6つのゴール(goal)に基づいて、具体的な目的(objective)と活動(activity)を定めている:(1)難民条約と議定書の実施強化、(2)重層的な人口移動の中での難民保護、(3)より公平な負担・責任分担と難民受け入れ・保護対応力の強化、(4)安全上の問題へのより効果的な取り組み、(5)恒久的解決策のさらなる追求、(6)難民女性・子どもの保護の必要性への対応。これらのゴールはすべて重要であるが、負担の共有や難民女性・子どもの保護の改善などは、「課題」全体に共通するテーマでもある。
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難民条約と議定書は、国際難民保護レジームの土台である。したがって難民条約と議定書の実施強化は、難民と庇護希望者の保護を改善するにあたっての第一歩となる。「行動計画」では、条約の実施強化を可能にするいくつかの方法が示されている。例えば難民条約と議定書の全世界レベルでの締結への働きかけ、各締約国の庇護に関する手続きの改善や締約国間での手続きの調和、保護を必要としながら難民条約での難民の定義にあてはまらない人々への代替的な形の保護の提供、また逆に国際的な保護に値しない者をすみやかに除外するための措置などである。
各国内では、政府、NGO、UNHCRが難民保護にとってより適切な環境を整えるよう求められている。そのためには、例えば市民の意識向上キャンペーン、庇護希望者を受け入れる十分な体制の確保、庇護希望者と難民の個別登録と適切な証明書の提供、また難民の大量流入に対応する制度の確立などを通じて、難民を尊重する姿勢を育んでいくことが不可欠となる。
人口の大量移動の引き金となる要因への対処も同様に重要である。「行動計画」では各国、国際機関とUNHCRに、特に武力紛争などの難民流出の根本原因を検証し、人材と財政の両面でより大きな資源を投入することにより、難民送り出し国における人権、民主的価値、グッド・ガバナンス(良い統治)への尊重を構築し、紛争防止、紛争解決、平和維持における国連の事業を支援するよう求めている。
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難民は、経済移民や他のカテゴリーの移民を含めた重層的な人口移動の中で移動する。合法的な入国の手段が限られている中で、難民ではない人々が庇護希望者として入国しようとすることも往々にしてある。こういった重層的な人口移動の中での難民の保護のためには、難民保護を弱体化させず、かつ庇護制度への負担を抑えることで庇護の適切な環境を整えるような出入国管理政策を確立することが各締約国に求められる。UNHCR、国際移住機関(IOM)、その他の国際機関、および各国は、庇護と移民に関するより多くのデータを収集する必要がある。その目的は、「プッシュ」要因と「プル」要因、すなわち人々が本国を離れ、また他国へ引き寄せられる原因や、密入国の状況、移動ルート、難民を含めた複雑かつ複合的な人口移動の他のさまざまな側面をより明確に理解することにある。
各国は、自国の出入国管理措置を整備する際、国際的保護を必要とする人々がそれを得られるような保障措置を講ずるよう奨励されている。このような保障措置は、庇護希望者の海上救助のみならず、移民が意図した目的地に達するのを阻止する場合においても適用されなければならない。さらに、国際的保護が不要であると判断された庇護希望者については、早急に、ただし人道的に、人権および尊厳を尊重した方法で本国に送還するための対策が必要とされる。
「行動計画」はまた、人身取引および密入国の撲滅も求めている。各国は、2000年の「国際的な組織犯罪の防止に関する国連条約」とその議定書を締結すること、移民希望者に向けて密入国や人身取引にともなう危険について警告し、合法的に入国する機会もあることを知らしめる情報提供キャンペーンを実施すること、そして人身取引行為に科される刑罰を広報するよう求められている。
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「締約国宣言」は、国際的な難民保護レジームが多国間の協力によって強化されることを確認している。「行動計画」で提示される活動は、難民保護に関するより公平な負担・責任分担と難民受け入れ・保護対応力の強化という概念に基づくものである。このゴールを達成するため、UNHCRには、各国、特に第一次庇護国と協力すること、大量流入に対処するための具体的な責任分担の合意を導き出すこと、そして解決策のないまま長引く難民の状態を打開することが求められる。高等弁務官は上記の試みとその関連活動を「コンヴェンション(条約)・プラス」(“Convention Plus”)と名付けた。その意図が難民条約を土台に負担の共有を促進するための特別協定および多国間取り決めを作りあげることにあるからである。各国もまたUNHCRや他の国際機関・NGOなどと協力し、教育や職業訓練など基本的なサービスを提供する対応力を強化するなど、難民保護対応力を高めることが望まれる。「行動計画」はまた、難民問題と国内、地域、多国間の開発計画とを関連づけて考えることを提唱する。例えば、各国はその開発援助資金の一定の割合を、受け入れ国の難民と現地の住民双方にとって役立つプログラムに割り当てることを考慮するよう奨励されている。
各国はまた、特に難民の大量流入が発生している状況において、保護と負担の共有の両方の手段として第三国定住をいっそう活用することを求められる。責任分担には、保護活動における多岐に渡るパートナーの参加を必要とするため、「行動計画」ではNGOなどを含めた市民グループとの関係強化と難民のコミュニティに根づいた保護システムの育成が目指される。
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「行動計画」のもうひとつのゴールである、安全上の問題へのより効果的な取り組みは、難民が直面する数多くの安全上の問題に焦点を当てている。社会制度や文化制度の崩壊、家族やコミュニティとの別離やその喪失、難民に対する犯罪行為の実行者の不処罰などにより、難民、特に女性や子どもが被害を受けやすくなっている。難民女性はレイプ、略取・誘拐、人身取引の危険に頻繁にさらされている。加害者は難民自身であったり、受け入れ先の住民、現地当局者や人道援助に携わる者の場合もある。特に難民の少女は、性的搾取、暴力、性的虐待の被害者となる危険性が高い。武装集団や国の軍隊が難民の青少年らを標的にして強制的に徴集するという事態も多発している。
「行動計画」では、各国とUNHCRが協力し合い、庇護の文民的性格を維持する手段を講ずるよう提案している。このためには、難民集団からの武装分子の引き離し、各国、UNHCR、国連平和維持活動局、およびその他の国連組織や国際機関の間での、難民の安全を守る保護対策の導入が必要とされる。
軍隊・武装集団への強制徴集を防ぐため、各国は、難民の青少年たちへの通常の教育や職業訓練の機会を確保し、このような事態をどのように事前に阻止するかについてのトレーニングを、難民に提供しなければならない。各国には、2000年の「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」の締結が奨励される。さらに可能な場合、各国、国連児童基金(UNICEF)、UNHCR、およびその他の難民保護に関わるパートナーは、難民の子ども兵士の武装解除、動員解除、社会復帰のためのプログラムを設けていく。
年齢を理由とした暴力、性的暴力、およびジェンダーを理由とした暴力の問題には、すべての加害者にその行為の責任を負わせ、難民自身による被害申し立てを可能にする制度を確立することによって対処する。このような形態の暴力に関する教育や意識を高めるためのプログラムは、男性・女性を問わず、また子どももその対象として実施する。難民保護に関わるすべてのパートナーは、性的搾取・暴力・虐待のサバイバーの権利とニーズに関する研修を受けなければならない。
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難民の国際的保護の中核のひとつは、難民にとっての恒久的解決策を見出すことである。「行動計画」は、出身国、受け入れ国、UNHCR、人道援助パートナー(NGOを含む)、そして難民に対して、特に長期化する難民状況において、自主帰還、庇護国への定着、そして第三国定住を統合した包括的な取り組みにより恒久的な解決策を見出すよう奨励している。これはまた、高等弁務官の「コンヴェンション・プラス」の一部でもある。
このゴールのもとでの主な目的は、自主帰還の条件を改善し、難民の帰還を持続的なものとしていくことにある。出身国は、UNHCRや国連人権高等弁務官などその他のパートナーと協力し、帰国の権利を尊重するとともに、恩赦や人権保障およびその他の措置によって、帰還民に身体的・法的・物的な安全を保障し、女性を含め帰還民すべてが自己の財産を取り戻すことができるようにする。帰還民と現地住民の和解が奨励され、帰還民に職業訓練を含めた教育の機会が確保されなければならない。また帰還民女性も男性と同じく平和および和解プロセスに参加するよう奨励される。
庇護国への定着を促進するにあたり各国は、かなりの程度の社会的・経済的な定着を果たしている難民に対し、庇護国での国籍取得の可能性を含め、いつ・どこで・どのようにして、安定した法的地位と居住権を付与するのかについて検証していく。国際・地域開発におけるパートナーは、難民の自立を助け、難民を受け入れる現地コミュニティの許容力を確保するため、必要な資源の提供を保証する役割を果たさなければならない。
第三国定住の可能性は、難民の保護手段および恒久的解決策の双方の観点から、拡大されなければならない。そのためUNHCRでは新たな難民受け入れ国を確保していく。すでに第三国定住で難民を受け入れている国は、受け入れ枠を拡大すること、受け入れ対象の難民の多様化、そして柔軟な受け入れ基準を導入することが求められる。さらに、各国とUNHCRは、難民登録時に得た情報の分析をもとに、グループまたは個人での第三国定住の必要性を予測し、特に緊急を要する状況においてはより迅速に第三国定住申請の手続きができるようにする。ジェンダーを理由とする保護の必要性については、そのような危機にさらされる難民女性を対象としたプログラムに加え、今まで以上に重点を置いて第三国定住を進めていく。
UNHCRと各国は、難民の援助プログラムが究極的には難民の自立を念頭に入れたものであるという認識に立たなければならない。難民女性および難民男性の能力を活用すれば、食用油、毛布、ストーブ等の基本的な物資は難民自身が生産することも可能である。難民は往々にして受け入れ国において社会的・経済的な機会を与えられず、その結果、援助に対する依存が高まり、性的暴力やジェンダーを理由とする暴力の発生を助長する傾向がある。自立を念頭に入れたプログラムはこのような問題を減少させる助けともなる。難民保護における関係者は、難民自立プログラムの企画と実施に必ず難民、特に難民女性と青少年、そして、地元住民が参加できるようにしなければならない。
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難民女性と子どもの保護に関する指針や政策は既に数多く存在している。しかしこれらは必ずしも適切に適用・実施されているとはいえない。「行動計画」は、難民女性・子どもの保護の必要性への対応というゴールを策定してこの点を強調している。「行動計画」におけるその他のゴールにともなう行動も同様に、難民女性と子どもの保護を目指したものではあるが、これを別個のゴールとして設定することで、その保護の枠組み改善に重点が置かれている。
各国、UNHCR、およびその他の難民保護におけるパートナーは、難民女性が自己の生活に影響を与える意思決定プロセスに参加できるようにし、難民支援のために開発されるプログラムの策定、実施および評価において、ジェンダーに配慮し、かつ、すべての研修および学習プログラムの中に男女の平等が常に盛り込まれるようにしなければならない。またさらにUNHCRは、「ジェンダーを理由とする迫害に関するガイドライン」、「難民女性の保護に関するガイドライン」、および性的・ジェンダーを理由とする暴力をどのように防止しそれに対処するかについてのガイドラインの数々が、幅広く普及し実施されるよう働きかけなければならない。1979年の「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」および1999年のその選択議定書の締結が奨励される。
また上記と同様に、各国、UNHCRおよび難民保護におけるパートナーは、青年を含めた難民の子どもが適宜、彼らの生活に影響を与える意思決定プロセスに参加すること、難民支援のために開発されたプログラムが子どもの福祉を十分考慮したものであること、そして難民の子どもに自分たちの権利を伝えることを保障しなければならない。「行動計画」は各国に対し、1989年の「児童の権利に関する条約」、2000年の「武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書」、「児童の売買、児童の買春および児童ポルノに関する児童の権利に関する条約選択議定書」を締結するよう奨励する。教育が重要な保護手段であることを認識し、各国は難民の子どもおよび青年への初等教育と中等教育の確保についても優先課題とする。
将来を見据えて
「課題」が成功するかどうかは、個人、団体、組織、国家のそれぞれがどこまで「課題」を実行に移すか、そしてどこまでしっかりとしたフォロー・アップが出来るか、という個々のコミットメント次第である。UNHCRはすでにUNHCR執行委員会と協議を行い、長期にわたる「課題」の実施作業プログラムの策定を開始している。「課題」での要請に応え、高等弁務官は「コンヴェンション・プラス」のイニシアチブを実施するためのフォーラムを設立することにより、難民の状況を改善し、保護を必要とする人々の数を減少させるための具体的な行動を開始しようとしている。
以下の文書は、当初2002年6月26日にA/AC.96/965/Add.1として発行されたものである。本書は2002年10月、第53回UNHCR執行委員会で支持された。
I.はじめに
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、UNHCRと各国が難民保護に関して直面する様々な課題に応え、そして1951年の「難民の地位に関する条約」(難民条約)の50周年を記念し、2000年12月に「難民の国際的保護に関する世界協議」を開始した。その目的は、難民条約の枠組みを活性化させるために反省と行動を促し、各国に対話と協調の精神で難題に対処するための条件を整えることにあった。1
「難民保護への課題」は、この協議プロセスの成果である。これは各国、国際機関、非政府組織(NGO)と難民当事者の多岐にわたる関心と勧告を反映したものとなっている。この「課題」の重点は、庇護希望者と難民の国際的保護を強化し、難民条約と1967年の「難民の地位に関する議定書」(議定書)のより良き実施のための活動を提案することにある。これらの活動は、スイス政府とUNHCRが共同で2001年12月12日・13日に開催した難民条約・議定書の締約国閣僚会合において全会一致で採択された宣言を出発点とする。2この宣言は、難民条約と議定書の恒久的な重要性を認識し、これらの文書が示す価値と原則を守るための政治的コミットメントを確認し、さらにすべての締約国にその実施強化の方法を検討するよう強く要請している。「締約国宣言」はまた、条約の適用を監督する義務をUNHCRが円滑に果たせるよう、締約国とUNHCRとの間のより密接な協力の必要性を確認している。3「締約国宣言」は、合意された基本原則の枠内におけるより強固な国際協調を前提にしている。
この宣言は、「難民保護への課題」の枠組みでもあり、それは同時にUNHCR、各国、NGOその他の難民保護におけるパートナーが互いに協力し合いながら将来を通じて保護の目標を推進する行動指針となることを意図している。4
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「難民の国際的保護に関する世界協議」に関する情報については、UNHCRウェブサイト、www.unhcr.orgの「世界協議」(Global Consultations on International Protection)のページを参照。
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UNHCRウェブサイト、www.unhcr.orgの「世界協議」のページで入手可能な、「1951年の『難民の地位に関する条約』・1967年の議定書の締約国閣僚会合の報告書」HCR/MMSP/2001/10を参照。
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UNHCRのウェブサイト、www.unhcr.orgの「世界協議」のページで入手可能な、「難民条約・議定書の締約国宣言」HCR/MMSP/2001/09を参照。
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「難民保護への課題」は、そこに含まれた行動への相当な支持を関係者全体の間で生み出したプロセスの成果である。「課題」は、難民の国際的保護を強化するためのゴールと目的を定め、そのための行動を列記している。この枠組みを漸進的に実施するには、場合によって追加的な協議が必要であり、また、資源の利用可能性やすべての関係者のコミットメントがその行方を左右することになる。
II.締約国宣言
「締約国宣言」は、難民保護のためのより広い国際的枠組みの中における難民条約と議定書の意義について多くの重要な了解事項を定めている。この宣言は、「課題」の中にあって、そのゴール、目的そしてこれらを達成するための活動の枠組みとなる。この宣言は、「課題」にとって不可欠の一部である。以下の各パラグラフの見出し番号は、採択された原文に対応している。
前 文
われら難民条約・議定書の締約国代表は、2001年12月12日および13日に、スイス政府およびUNHCRの招請によりジュネーヴにおける第1回締約国会合に参集し、
- 2001年という年が1951年の難民条約の50周年に当たることを認識し、
- 1967年の議定書によって修正された難民条約が、主要な難民保護文書として不変の重要性を有し、人権を含む諸権利および条約の対象となる者に適用される最低限の処遇基準について定めていることを認め、
- その他の人権および地域的難民保護文書(1969年の「アフリカにおける難民問題の特殊な側面を規律するアフリカ統一機構(OAU)条約」および1984年のカルタヘナ宣言を含む)の重要性を認め、ならびに、1999年のタンペレにおける欧州理事会の結論以来構築された欧州における共通の庇護制度と1996年の「独立国家共同体(CIS)の国々と関係近隣諸国における難民、避難民その他自己の意思によらない移住者および帰還民の問題に対処するための地域会議」の「行動計画」の重要性も認め、
- 慣習国際法の一部となっているノン・ルフールマン原則を中心に据えた人権および基本的原則に関するこの国際的なレジームの継続的重要性と恒久的価値を認識し、
- 難民の受け入れ国が果たす積極的かつ建設的な役割を称賛すると同時に、一部の諸国、特に開発途上国および経済的移行期にある諸国が担う過度の負担、多くの難民問題の長期化、ならびに適時で安全な解決策の欠落を認め、
- 武力紛争の性質、人権と国際人道法の引き続く侵害、現今の強制移動のパターン、重層的な人口の流動、大量の難民・庇護希望者の受け入れと庇護制度の維持にかかる膨大なコスト、人身取引と密入国の増加、庇護制度の濫用阻止と国際的保護に値しないかまたはその必要のない者の除外・送還の問題、長期化する難民問題の解決策の欠如など、変化する複雑な状況のもとで難民を保護しなければならないことに留意し、
- 議定書によって修正された難民条約が、国際難民保護レジームの中心であることを再確認し、ならびに、このレジームが発展し、難民条約と議定書を適当な場合に補足・強化することを信じ、
- 国家による難民保護責任の尊重は、国際社会のすべての構成員による国際的連帯によって強化されること、ならびに、難民保護レジームは、すべての国による連帯と効果的な責任・負担の共有の精神に則った国際協力を通して向上することを強調し、
本 文
- 難民条約・議定書に基づく義務をその趣旨および目的にしたがって誠実に履行するわれらの誓約を厳粛に再確認する。
- 難民問題の社会的および人道的性質を認識して、これらの諸文書に具体化された諸価値および諸原則であり、かつ世界人権宣言第14条に適合するものを支持することへのわれらの引き続く誓約を再確認する。当該諸価値および諸原則は、難民の人権および自由の尊重、難民の窮状を解決するための国際協力、ならびに、難民問題の発生原因に対処し、特に平和、安定および対話の促進を通じて難民問題が国家間の緊張の原因となることを防止する行動を求めるものでもある。
- 難民条約・議定書をいまだ締結していないものの多数の難民を寛大に受け入れ続けている庇護国があることを認める一方で、これらの文書をすべての国が締結するよう促す重要性を認める。
- 難民条約・議定書を締結していない諸国に対して、可能な限り留保のない締結を奨励する。
- また、地理的制限またはその他の留保を付している締約国に対して、それらの撤回を検討するよう奨励する。
- すべての国に対して、適用可能な国際基準に従い、難民の地位の決定と庇護希望者と難民の処遇に関する国内法令および手続きの整備と実施を通じ、庇護を強化し、保護をより効果的にする措置を採る、または引き続き採るよう要請する。その際に、女性、子ども、高齢者など特別なニーズを持つ社会的弱者への特別の配慮がなされなくてはならない。
- 各国に対して、とりわけ新たな脅威と課題に鑑み、特に難民条約第1条Fおよび第33条2項を慎重に適用することにより庇護制度の本来のあるべき姿を確保する現在の努力を継続するよう要請する。
- 難民に国際的保護を提供し、恒久的解決を促進する責務を持った多国間機関としてのUNHCRの基本的重要性を再確認し、および、UNHCRの任務遂行に協力するわれら締約国の義務を想起する。
- すべての国に対して、難民条約・議定書の実施を強化するために必要な方法を検討し、その規定の適用を監督する義務をUNHCRが円滑に果たすため、締約国とUNHCRとの間の密接な協力を確保するよう要請する。
- すべての国に対して、UNHCRの任務下にある者のニーズが完全に満たされることを確保するため、UNHCRによる資金調達の要請に、迅速で予測可能、かつ適切に応じるよう要請する。
- 庇護希望者・難民の受け入れ、カウンセリング・ケア、難民を完全に尊重した恒久的解決の追求、さらに、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連する不寛容と闘い難民に対する公衆の支持を獲得するための唱導、意識喚起および情報活動を通じ国際難民保護レジームの維持にあたる各国とUNHCRへの支援にあたってきた多くのNGOによる難民への福利への貴重な貢献を認める。
- われらは、国際的連帯および負担の共有の枠組みの中で、開発途上国および経済的移行期にある諸国、特に大規模な難民流入または長期的に難民の受け入れ国となっている諸国における対応力を開発するため、地域的および国際的な包括的戦略を通じより良い難民保護を提供すること、ならびに、難民がより安全で改善された滞在条件を享受し、難民問題の適時の解決を確保するため対応メカニズムを強化することを誓約する。
- 難民の発生を回避するには防止が最善の方法であることを認め、国際的保護の最終目標がノン・ルフールマン原則に適合した難民のための恒久的解決の達成であることを強調し、ならびに、安全で尊厳を確保した自主帰還が難民にとってより好ましい解決策であることを認めつつも、自主帰還および、適当かつ実現可能な場合には、庇護国への定着および第三国定住を含む解決策を引き続き提供する諸国を称賛する。
- 難民条約・議定書の締約国閣僚会合を主催したスイス政府およびスイス国民に対して感謝の意を表明する。
III. 行動計画
「締約国宣言」に続いて「行動計画」が提案される。これが実施される場合には、多年にわたって難民保護が漸進的に強化されていくはずである。「行動計画」は以下6つの目標を設定している。
- 難民条約と議定書の実施強化
- 重層的な人口移動の中での難民保護
- より公平な負担・責任分担と難民受け入れ・保護対応力の強化
- 安全上の問題へのより効果的な取り組み
- 恒久的解決策のさらなる追求
- 難民女性・子どもの保護の必要性への対応
「行動計画」の諸ゴールは相互に関連し、また、テーマも横断的なものである。例えば、責任・負担の分有やジェンダー・年齢に配慮した保護レジームの運用などである。難民女性と子どもに関するフォロー・アップ活動は、「行動計画」の全体に組み込まれているほか、特に目標6で詳しく取り上げられている。