第85号 (XLIX) -1998- 国際保護に関する結論 *1

執行委員会は、

保護の状況に関して

  1. 多数の諸国が国際法および国際的に確立された諸原則と諸基準に従って、個別的認定を基礎としても大量流入の状況においても、難民に庇護を与え続けていることを歓迎し、しかし、いくつかの国によるそれらの法、原則および基準に対する度重ねての重大な違反を遺憾に思い、
  2. とりわけ、ある特定の状況において難民、帰還民およびUNHCRの関心対象となるその他の人々が、武力攻撃、殺人、レイプおよび身体の保全に対する他の重大な侵害または脅威(安全を求めることに対する拒否または非常に危険な状況への強制送還もしくは追放による場合を含む。)にさらされていることを遺憾に思い、
  3. 人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員または政治的意見を理由に標的とされる集団に対する迫害政策を遂行するための手段として戦争や暴力に訴えることが頻繁化していることに対して深い憂慮の意を表明し、
  4. 難民の保護が第一義的に国家の責任であり、この保護は国際的な連帯および負担分配の精神によってすべての国とUNHCR、他の国際機関および関係者との間の効果的な協力が行われることによって最もよく達成されることを繰り返し表明し、
  5. UNHCRおよび各国に対して、1951年の難民条約および1967年の議定書への、より多くの国による加入を促進するようその努力を強めること、またこれらの法的文書の普遍的かつ完全な実施を促進することを奨励する。

人権と難民の保護に関して

  1. 今年が、世界人権宣言50周年にあたる記念すべき年であることを留意し、また庇護制度が第14条で謳われる、「迫害からの庇護を求め、かつ享受する権利」に直接由来するのであって、最も基本的な難民保護の仕組みの一つであることを再確認し、
  2. 難民の体験とはあらゆる段階において、国家が人権および基本的自由ならびに関連する難民保護諸原則をどれほど尊重しているか、ということに密接に関係することを認識し、また、この点に関して、人種差別主義および外国人排外主義と闘い、あらゆる人格とその人権に対する寛容と尊重を促進し、かつ法の支配と法的および司法的な対応能力の育成を推進し、市民社会と持続可能な発展を強化するための、教育上およびその他の計画の重要性を繰り返し表明し、
  3. 難民流出の主な原因の一つである、人権および基本的自由に対する重大なかつ繰り返される侵害が、平時にも武力紛争時にも続いていることを遺憾に思い、
  4. UNHCRに対して、難民保護を強化するために国連人権高等弁務官事務所、関係のある人権機関および人権メカニズムならびに非政府組織とのその協働関係を一層強化するよう促す。ただし、協力関係を改善し、補完性を促進し、かつ労力の重複を避けると同時に、それぞれの任務の独自的性格を留保する必要があることを念頭に置くべきである。
  5. また、難民あるいは避難民である女性および少女に対する性差に関わる暴力およびその他の性別を理由とする差別を嘆き咎め、各国に対して、彼女らの人権および身体上心理上の保全が保護されることを確保し、また彼女らにこのような権利を有していることを知らしめるよう要請し、
  6. 難民である児童の権利に対する侵害が、軍事活動に強制的に参加させる目的の誘拐による場合、ならびに暴力的な行動、その尊厳への脅威、強制的な家族離散および性的な虐待と搾取による場合を含めて引き続いて行われていることを深く憂慮し続け、また各国および関係当事者に対して、難民法、人権法および人道法に従ってこのような人権侵害を終わらせるために必要なあらゆる措置を執るよう要請し、
  7. 1999年が国際高齢者年であることに留意し、UNHCRに対して、高齢の難民の権利、ニーズおよび尊厳が充分に尊重され、かつ適切な計画的活動を通じて対応されることを確保するために更なる努力をするよう要請し、
  8. 国籍を持つ権利の重要性を再確認するとともに各国に対して、無国籍の発生を防止しまたは減らすために必要なあらゆる措置(国内立法ならびに必要な場合には無国籍に関する諸条約への加入およびその履行によるという方法を含む。)を執るよう要請し、またこのことに関連して、難民および庇護希望者の子であって庇護国で生まれたもののうち、適切な法令および登録手続きがおかれず、また実施されなければ無国籍にならざるを得ないものの状態に特別な、かつ緊急の注意を喚起する。

庇護を求め、かつ享受する権利に関して

  1. 庇護制度が国際的な保護を必要とする人々に対する保護および支援のための、組織立てられた枠組みを提供するという目的に資するものであり、更に、適切な恒久的解決が達成されうるように保証するという理由で、庇護制度が難民保護にとって最も重要であることを強調し、
  2. 国際的な連帯および負担配分の原則を支持することについての本執行委員会の関わりを繰り返し表明し、難民受入国、特に世界の難民の大半を受け入れてこれに関して重い負担を負っている発展途上国を支援するために、資金をはじめとする資源を動員する必要性を再確認し、ならびに国家、UNHCRおよび国際社会に対して、恒久的解決がなされるまでは難民の庇護および援助のニーズに応じ続けるよう要請し、
  3. 国際的な連帯および負担配分が、難民保護原則の充分な履行上直接的な重要性をもつことを認識する。ただしこのことに関連して、庇護を求めることおよび国がその保護義務に対応することが、先ず初めに負担配分の取極が成立しているかどうか次第とされるべきではないこと、とりわけその理由として基本的人権および人道的原則の尊重が国際社会の全ての構成員にとっての義務であることを強調する。
  4. また、時折ひとまとめの形で行われることがある即決移送を含むあらゆる形式での強制送還が引き続いて行なわれており、しばしば人道上悲劇的な結果を招いていることを遺憾とし、更にこの点に関連して難民を国家領域に受け入れる必要性を繰り返し表明する。なおその必要性には、難民の地位認定のための公正で効果的な手続および保護上の必要措置へのアクセスなしには国境における入国拒否をしないことが含まれる。
  5. また各国に対して、難民の請求を取り扱うための手続を考案し、かつ実行するよう強く促す。なお、その手続は、適用可能である普遍的難民文書および地域的な難民文書に定める保護に関する諸原則と一致し、更に国際的諸基準および執行委員会が勧告する諸基準にも矛盾しないものでなければならない。
  6. 国内の難民認定手続を誤用しまたは乱用する傾向が増えているという国々からの報告に憂慮の念をもって留意し、また各国が国家レベルでも国際協力を通じてもこの問題に対応する必要性を認め、ただし、各国に対して、国内法および出入国管理措置を含む行政上の実務慣行が、関係国際文書に定められているような、適用可能な難民法および人権法の諸原則および諸基準と両立しうることを確保するよう強く促し、
  7. 庇護希望者および難民が滞在国の法規に従う義務があることを強調する。

家族の統合に関して

  1. また、世界人権宣言第16条第3項および市民的政治的権利に関する国際規約第23条第1項が、家族は社会の自然でかつ基本的な集団単位であり、社会および国家によって保護される資格がある、と宣言していることを想起し、
  2. 家族の統合は、家族の長が特定の国に難民として受け入れられている場合にはとくに、維持されるよう確保するために各国政府が適切な措置をとるよう勧告し、
  3. 各国に対し、関連諸原則および諸基準に従って、特に全ての関連した要請を遅滞なく人道的精神をもって前向きに検討することにより、領域内にいる難民の家族の再統合を円滑にする措置を実施するよう強く求め、
  4. 難民およびその家族の人権に考慮しながら、すべての難民の家族統合の権利に国内法レベルにおいて実効性を与えるための法的枠組みの発展を未だ考究していない国に対して、その考究を行なうよう、促す。

難民と難民以外の者の混成流出と帰還の促進に関して

  1. また、人の流出が難民ばかりではなく国際的保護を必要としないかあるいは国際的保護をうける資格のない者も含んでいることがあることを強調し、従って、この2つのグループを公正かつ注意深く区別することが、帰還が不適切で保護を必要とする人々を見分けるためには最も重要であることに留意し、
  2. 出身国を離れるか、または出身国へ帰還するというすべての人の基本的権利とともに、自国民を受け入れるという各国の義務を繰り返し表明し、また国際的な保護を必要としない人々の帰還に関しては、公然と、ないしは迅速な帰還を実際上妨害する法律および実務慣行によって自国民の帰還を制限し続けている国があることを深刻に憂慮しつづけており、
aa.
二国間または多数国間の再入国協定に従う場合を含めて、難民認定請求が未だ決定されていない庇護希望者が、当該請求が提出された国の領域から第三国に帰還することに関しては、当該第三国が、認められている国際基準に従って庇護希望者を扱い、強制送還からの効果的な保護を確保し、「庇護を求め、かつ享受する」可能性を庇護希望者に与えるよう強調し、
bb.
庇護希望者あるいは国際的な保護を必要としない人々の帰還について、身体上の安全を危険にさらすような実務慣行がとられていることを深く遺憾に思い、この点に関しては、当該者の地位に関わりなく、帰還が人道的方法で、彼らの人権および人としての尊厳性に対する充分な尊重の下に、かつ過度の強制にうったえることなく行われるべきことを繰り返し表明する。

庇護希望者の拘禁に関して

cc.
また、1951年難民条約第31条を想起し、難民および庇護希望者に関する結論第44号(XXXVII)を再確認し
dd.
恣意的に、不当に長期間、かつUNHCRにも拘禁されている立場についての時宜を得た再審査のための公正な手続にもうったえる充分な機会も与えずに庇護希望者(未成年者を含む。)を慣例的に拘禁し続けている国が多数あることを遺憾に思い、このような拘禁の慣行が、確立されている人権基準と一致しないことに留意し、各国に対して拘禁にかわる実行可能なあらゆる方法をいっそう積極的に見つけ出すよう強く要請し、
ee.
不法入国または不法滞在の理由のみによって拘禁されている庇護希望者たちは、通常の犯罪者として拘禁されているものとしばしば一緒に拘禁されている事実に懸念をもって留意し、このような拘禁は望ましくなく、可能な限りいつでも避けられなければならないこと、および庇護希望者は身体の安全が危険にさらされる地域におかれてはならないことを繰り返し表明する。

恒久的解決に関して

ff.
各国、とくに難民の出身国に対し、二国間レベル、地域レベル、および全世界レベルでの決然たる協力によって難民流出の根元的な原因に、その予防の面でもその治癒の面でも取り組み、至当かつ永続的な解決策を促進するようつよく要請し、
gg.
結論第62号(XLI)が、自主帰還、現地での統合および再定住、すなわち難民にとっての伝統的解決方法は、自主帰還が秀でた解決であるにしても、これらの解決方法のすべてが難民状態に対する実行可能な、かつ重要な対応方法である、と述べていることを想起し、
hh.
出身国、庇護国、UNHCRおよび国際社会に対し、難民が自らの家に安全にかつ尊厳を保ったまま帰還する権利を自由に行使できるようにするために必要なあらゆる措置を執るよう要請し、
ii.
帰還の永続性の促進と確保を調和させることの重要性を強調し、また国家およびその他のあらゆる関係機関や関係者(難民自身も含む。)に対し、帰還者の再統合を遂行する社会に永続的な平和と正義をもたらすために執られるあらゆるイニシアティブに積極的かつ多大な協力を行なうよう要請し、
jj.
再定住は保護の手段として、また負担配分の要素として、引き続き重要であることを再確認し、再定住が適切な解決方法である人々に対する再定住の機会の効率的な、かつ時宜を得た提供を増進するために、UNHCRが再定住を認める国と引き続き協力していくよう要請し、まだ再定住の機会を提供していない国およびその機会提供の可能である国に対し、そのような機会提供に協力するよう促し、また各国およびUNHCRに対し、特別な保護を必要とする個々の難民(危険にさらされている女性、未成年者、青少年、高齢難民および拷問からの生残者を含む。)の再定住に特に注意を払うよう求める。

*1国連総会文書No.12A(A/53/12/Add.1)に含まれている。