総括
難民として認められれば、特別な法的レジームが適用され、多くの重要な権利および利益、援助、保護措置を付与される資格を持つことになります。これらが総じて「国際的な難民の保護」を構成するのです。また、難民は滞在国に対して一定の義務を負い、特に国内法令を守ることが義務付けられています。
ルフールマンに対する保護
もっとも重要なのは、難民は彼らが迫害の危険に直面する国への送還に対する保護を享受することです。これはノン・ルフールマン(non-refoulement)原則として知られています。これは難民保護の礎石と言われ、明示的に難民条約第 33 条(1)に規定されています。
正式な難民認定は、ルフールマン(送還)に対して保護されるための前提条件ではありません。庇護希望者は難民であるかもしれませんので、彼らは地位の判断がなされる前に送還・追放されてはならないということは、確立された国際難民法の原則となっているのです。ノン・ルフールマン原則は、国際慣習法の規範へと発展してきました。そのため、これは、難民条約・議定書の締約国でない国さえも拘束します。また、国際的・地域的な人権法は、各国がその他の基本的人権が侵害される重大な危険性のある国へ個人を送還することを抑止しています。
ノン・ルフールマン原則への例外は非常に限定的ながら存在します(第 33 条(2))。そのような状況とは、ある難民が滞在国の安全に非常に深刻な将来的危険をもつ場合です。これはたとえばその国の憲法、領土の保全、独立、対外的平和への脅威を与える場合、または特に深刻な性質の犯罪(たとえば、殺人、強姦、武装強盗)に関して有罪が確定している場合であり、滞在国の社会に脅威であり続ける場合です。このような例外の適用には、適正手続きによる保障が確保されなければなりませんし、難民の退去が拷問や残虐・非人道的・品位を傷つける取扱いや刑罰を受ける相当な危険につながるような状況などでは適用されてはなりません。
難民認定申請中の手続き的保障
日本の難民認定手続きについては、こちらを参照してください。
難民条約と難民議定書は、難民認定手続きそのものについては定めていません。庇護申請の審査のために各国が設けている制度のあり方は、それぞれ異なる法的伝統、資源および状況によって形作られているゆえに、さまざまです。しかし、難民認定が個別に行うなかで、難民条約の完全かつ最大限の包含的な適用をするために、公正かつ効率的な手続きが必須の要素であることは、一般的に認識されています。そのような手続きがなければ、各国は、国際難民法上の自国の義務を効果的に実施することができないことになってしまいます。
各国が国内法にもとづいて個々の庇護制度を設けるときに遵守すべき、国際的基準は国際的・地域的人権条約と、UNHCR執行委員会が採択した関連の結論に掲げられています。
難民認定手続きの、そしてそれが実効的に機能することの重要性については、いくら強調してもしすぎることはありません。誤った決定によって、人の生命や自由が犠牲になるかもしれないからです。
一般的原則
証拠法上の一般的な法原則として、ある主張を行なう者は、自己の主張が真実であることを立証するために必要な証拠を提出しなければなりません。しかし、庇護の文脈においては申請者の特別な状況を考慮に入れる必要があります。ほとんどの場合、庇護希望者が文書その他の証拠を提供することは、その出国状況や主張の性質からして不可能です。したがって、事実関係を確定する責任は申請者と審査官との間で共有されることになります。
公正かつ効率的な庇護手続き
個別の難民認定の文脈において難民地位への該当性の有無を判断するための手続については、UNHCR執行委員会が採択してきた多くの結論で、最低限満たされなければならない要件がいくつか特定されています。国内の難民認定手続には、難民の国際保護基準に合致した公正かつ効率的な決定を行なうために必要な、いくつかの中核的要素が備わっているべきです。
- 特別手続き
- 専門機関による決定
- アクセス可能性
- 手続き保障
- 個別的評価
- 秘密保持
- 決定における理由の提示
- 不服申立/再審査
- 拘禁の代替措置
- 生活手段の確保
特別な考慮が必要なケースについては、AGDMのページをご覧ください。
その他に与えられる権利や利益
ルフールマンに対する保護に加えて、難民は、数多くの権利および利益を与えられています。難民が庇護国より期待できる待遇の基準は、国際難民法と人権法の組み合わせを基盤としており、多くの権利は慣習国際法上も認められています。そのため、難民条約・議定書の締約国とこれらの文書によって拘束されていない国による待遇の基準は同様のものであるべきです。これらの権利および利益は以下のものを含みます:
- 受け入れ国における難民の身体的安全への脅威に対する保護。特に人種差別や排外主義が動機となっているものである場合に必要です。
- 庇護国において制限無く裁判へのアクセスができること。
- 食料、衣服、住居と医療を含む基本的な身体的・物的需要に対応した支援。特に庇護国における滞在の当初の段階で大多数の難民が他人の援助へ依存せざるをえない場合、労働市場へのアクセスと自営業の許可により自立を支援することは滞在国の利益となるものです。
- 移動の自由。公の秩序または公衆衛生へ特定の脅威を与えるのでなければ、滞在国の国民と同一程度の自由を享受できなければなりません。
- 十分な教育へのアクセス。少なくとも初等教育が受けられること。また、子どもの難民にはレクリエーションの機会が与えられること。
- できる限り早く庇護国において近しい家族の構成員と再統合できること。
- とりわけ弱い立場にある難民の保護のための特別措置。たとえば、女性や少女の難民は、性別・ジェンダーを理由とした暴力を被るより高い危険にさらされているため、特別な保護措置が必要となります。(詳しくはAGDMのページ)
- 身分証明書をもつことができれば、難民は上述の権利、特に移動の自由とルフールマンからの保護の権利をより享受しやすくなります。当該難民が旅行証明書を所持していない限り、庇護国は各難民に身分証明書を発行する義務をもっています。
- 難民条約はまた、政府が人種、宗教または出身国による差別なく、その領域内の難民に条約上の規定を適用しなければならないことも規定しています。
恒久的解決
難民には、普通の生活を送ることができるよう、その状況に対する恒久的解決を見出すための支援を受ける資格があります。(詳しくは恒久的解決のページ)