2013年 11月29日、ジュネーブ発
UNHCRがレバノンとヨルダンに避難しているシリア難民の子どもたちの調査を行なったところ、大多数が精神的疲労や苦痛を感じる状態にあることがわかった。保護者と離ればなれになり、たった一人で避難生活を送っていたり、教育を受ける代わりに違法な児童労働に従事している子どもが多くいる。
今日発表された報告書「シリアの将来―危機の中で生きる難民の子どもたち―(The Future of Syria -Refugee Children in Crisis-)」はUNHCRが初めてシリア難民の子どもに焦点を当てて行なった調査の報告書である。調査を通して、シリア難民の子どもの多くが崩壊した家庭環境の中で生活しており、家計を支える重要な担い手になっている場合が多いことがわかった。父親不在のシリア難民の家族は7万世帯以上、両親、もしくはどちらかの親と離れて暮らしている子どもは3700人にのぼる。
「我々が即行動を起こさなければ、子どもたちはこの先もずっと紛争の被害者であり続ける。」アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官は訴えた。
またアンジェリーナ・ジョリーUNHCR特使はこう述べた。「心に大きな傷を負い、孤立し、苦しみの中で生きているシリア難民の子どもを救うために、国際社会は行動を起こさねばならない。」
2年8ヶ月にも及ぶ紛争は、子どもたちの心と身体に深刻なダメージを与えて来た。レバノンでは今年1月から6月までに741人のシリア難民の子どもが怪我などを理由に病院を受診している。ヨルダンにあるザータリ難民キャンプではここ一年間で、1000人以上の子どもが、紛争で負傷し治療を受けている。
精神面に注目すると「怒り」などの強い感情を抱いている子どもたちが多い。ある難民の少年グループと対話した際、シリアに戻って戦いたいとの発言が多く見受けられた。調査担当者によると、シリアに戻る日のために少年たちが戦闘訓練を受けているとの報告もある。
今回の調査によって、シリア難民の子どもたちが不安にさいなまれ、孤独と苦難の中必死に生きようとする姿を伝えている。
インタビュー調査を行った子どもたちのうち29%が週に1回は自分の家に戻らないと語っている。ここで言う「家」とは、多くの人と共同で暮らす狭いアパートや、一時的に生活をするためのシェルターやテントなどである。
具体的な証言の中には、子どもたちの切実な声も反映されている「紛争によって私達は人生を壊されました。今は教育を受けていませんが、教育を受けていないということは私達に将来は無いということです。日々破滅へと突き進んでいるのです。」(ヨルダンに着いたばかりのナディア)シリア難民の子ども全体を見ると、学校に通える子どもより通えない子どものほうが多く、ヨルダンに避難しているシリア難民の子どもの半分以上が学校に通っていない。レバノンでは就学対象年齢の子ども20万人が、今年末まで教育を受けられない状態が続くと見られている。
さらに特筆すべきは、この危機の最中に生まれ、出生証明書のない子どもが大勢いることである。無国籍者にならないためにも、この出生証明書は必要不可欠な重要書類である。UNHCRがレバノンで行った最近の調査では、難民の子ども781人のうち77%が出生証明書を持っていないことがわかった。ヨルダンのザータリ難民キャンプでは今年1月と10月半ばまでの期間で、発行された出生証明書は68人のにとどまっている。
報告書はシリア難民の子どもたちの苦境を伝え、支援を得るためにこれまで国連機関やNGO、難民受け入れ国政府、そして難民自身が出来うる限りの努力をしてきたことを詳述している。特に脆弱で困窮している難民の家族に対するUNHCRから経済的支援や、UNHCRやUNICEF、セーブ・ザ・チルドレンなどのNGOが、子どもたちの教育の機会を取り戻すための創意工夫も伝えている。また、地元コミュニティによる難民をあたたかく受け入れる寛容な姿勢は欠かせない。
シリア難民の子どもは110万人以上にのぼるが、その大部分がシリア周辺国へと避難している。「紛争がもたらしたこの惨劇を国際社会はもっと知るべきである。」グテーレス高等弁務官とジョリー特使は、シリア難民を受け入れているシリア周辺国に対して国際社会が支援を強化するよう訴えている。また、怪我をした子どもを含む難民の家族に対する第三国定住や、人道的な配慮による滞在許可付与などを要請している。
今回発表された報告書にはシリア難民の子どもたちが置かれた苦境に焦点をあて、国際社会の関心を高めるため、特集サイトと連動している。
このウェブサイトは、シリア難民の子どもがおかれた状況を伝える写真、ビデオ、証言の引用、統計などをまとめたものである。ザータリ難民キャンプの子どもたちの様子をゴープロカメラ(GoPro camera)でおさめた映像もある。このウェブサイトで紹介されているシリア難民の子どもたちの体験を個々人が受け止め、寄付や、連帯のメッセージを発してくれることが期待されている。
【リンクのまとめ】
●シリア難民支援に関してはこちら
●シリア難民の子どもの写真や動画を集めたサイトはこちら
●UNHCR「シリア・アラブ共和国から避難する人々の国際保護の必要性について」更新II (2013年10月)
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