2017年8月25日にミャンマーのラカイン州で大規模な衝突が起こり、この地域に暮らす少数民族ロヒンギャが隣国バングラデシュに一気に避難を余儀なくされました。
あれから5年、それ以前にバングラデシュに逃れているロヒンギャ難民も合わせて、いまだ故郷に戻ることができていない人は約100万人にもおよんでいます。
現在、世界で故郷を追われる人は1億人を超えています。今年2月以降は世界の注目がウクライナ危機に集中していますが、ロヒンギャ難民はいまだ人道危機のまっただ中にあります。
その現状、UNHCRが取り組む支援について日本の皆さんにお伝えするために、8月初旬にUNHCR駐日首席副代表 ナッケン鯉都と国連UNHCR協会事務局長 川合雅幸がバングラデシュ・コックスバザールの難民支援の現場を視察。帰国後の8月24日、東京・内幸町の日本記者クラブで視察報告会を開催しました。
2017年8月以降、短期間で70万人を超える難民がロヒンギャ難民が避難してきたバングラデシュ南東部のコックスバザールでは、現地政府や国連機関、NGOなどが連携し、当初は緑もなかった土地に難民キャンプが整備されました。今回の視察では、難民登録をはじめ、日々の生活でニーズの高い教育や医療、難民の自立や気候変動対策のための取り組みなどが行われている現場を訪問し、難民や支援者に話を聞きました。
最初に訪れた登録センターは、難民一人ひとりの情報を登録・更新するための施設。それぞれのニーズに応じて適切な支援を提供するために必要不可欠です。登録が完了した難民にはIDカードが配布され、支援物資やサービスを受け取る際にカードに印刷されているQRコードで読み取り、情報が管理される仕組みになっています。
また、難民キャンプの人口の75%を占める女性と子どもへの支援も特に重要です。
昨年キャンプ内で生まれた子どもは約3万人。避難生活が長期化する中で、故郷を知らない子どもたちも増えています。視察先のラーニングセンターでは、ロヒンギャ難民の男性たちがボランティアで子どもたちの指導を行っており、昨年12月からミャンマーのカリキュラムの採用が始まり、ミャンマー語で学ぶことができるようになったといいます。
より脆弱な立場にある女性と少女に対する支援としては、キャンプ内に “安全なスペース”としての施設が設置され、困っていることを相談したり、悩みを共有し合ったり、情報交換などができるようになっています。またこの施設では、トレーニングを受けたカウンセラーのもと、ジェンダーに基づく暴力(GBV)の防止、こころのケアのためのカウンセリングや必要なサポートも強化されています。男性に対しても同様に、男性ボランティアが集まり、家庭内やキャンプでの課題やGBVの防止に向けた課題や解決策を話し合う場がつくられています。
そして、避難生活が長期化する中でより重要となってくるのは、自立に向けた準備です。キャンプ内では、地元の特産物のジュートを使った製品づくりとそのための技術指導を行う施設が設置されており、多くの女性たちが自身のスキルを磨いています。
このような難民キャンプ内でのさまざまな支援を継続していくために、現時点で集まっている資金は十分ではありません。また、ウクライナ危機の影響もあり、食料や燃料価格の高騰も大きな壁として立ちはだかっています。
国連UNHCR協会事務局長 川合は「男性ボランティアグループと話をしていた時に、“まずは自分たちが変わっていかなければならない”と、コミュニティを改善するための熱意と将来に向かっての強い意志を感じた」と話し、「これまで日本の企業、個人の皆さんからもたくさんの支援をいただいているが、まだまだ資金が必要であることを実感した。これからも日本の支援者の皆さんの理解をさらに広げていくための活動を強化していきたい」と力を込めました。
最後にUNHCR駐日首席副代表 ナッケンは「帰還の見通しがつかない中で、現地の状況は想像以上に厳しい。これまでいくつもの国で勤務してきたが、バングラデシュの難民キャンプは特別な場所だという感覚を持った」と話し、「大変な状況の中で暮らしているロヒンギャ難民のレジリエンス、生きる力を日本の皆さんにももっと伝えていきたい」と訴えました。