2019年、リビアからルワンダに逃れてきた時、アブドゥルバシト一家はこの先どうなるのかが分かりませんでした。これまで妻のザイナブと経験してきた数々の厳しい試練。「リビアに着いた時、収容され、二度と自由はないのではないかと不安でした」と振り返ります。
「ルワンダは安全な場所で、難民を寛容に受け入れていると聞いていました」
夫婦はリビアで生まれた娘とともに、ルワンダに向かいました。EUなど国際社会からのサポートを受けて、2年ほど前にルワンダ政府、アフリカ連合、UNHCRが立ち上げた人道支援メカニズムを通じて、最初にこの国に避難したグループです。
緊急トランジット・メカニズム(ETM)と呼ばれるこの取り組みでは、UNHCRが住居、食料、水、医療、こころのケア、言語習得などの支援を提供しています。
第一陣の受け入れからこれまで、ETMを通じて約515人の難民・庇護申請者がリビアからルワンダに避難。一時施設に滞在しながら長期的な解決策を探し、これまで少なくとも260人がカナダ、フランス、ノルウェーなどに第三国定住しました。
この4月、フィリッポ・グランディは3日間ルワンダに滞在し、ETMの施設の視察では、アブドゥルバシト夫妻やそのほかの難民から、避難の経緯やETMでの生活について話を聞きました。
「保護者のいない10代の若者たち、ソマリア人の家族とも話をしました。彼らはひどい虐待や拷問を受け、長期にわたる収容と不確かさへの不安、失望を経験しています。今まさに、そのトラウマを乗り越えようとしています」
グランディ高等弁務官は、ルワンダ政府、そして同様にリビアから逃れてきた人を受け入れているニジェールに対して、その連帯と寛容さに敬意を表しています。故郷を追われ、保護と安全を切に必要としているアフリカの脆弱な難民に希望を与えるものだと。
今回、首都キガリで大統領と面談の機会もありました。「ルワンダ政府には特に感謝の意を表したい。数年前、ルワンダでETMを始めることができたのはカガメ大統領のイニシアティブがあったからこそ。リビアの状況が改善しない限り、この取り組みはこれからも必要です」
アブドゥルバシト夫妻は、ルワンダでの生活により、安全と心の平和を取り戻しました。2人目の娘も生まれました。この先、家族みんなで新たな定住先に移り、過酷な避難の旅を終えたいと願っています。
「私はとても幸せです。そして父親として、家族に対する責任があります。第三国定住を待っている間は不安ですが、絶対にあきらめません。妻にもいつもそう話しています」。
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