ほんの数カ月前まで、アテフェ(23)はUNHCRと現地NGO「Iran Life Quality Improvement Association(ILIA)」の支援を受けて、15人の難民と一緒に、ヘアスタイルとメイクアップの技術を磨くために6カ月間の職業訓練コースに参加していました。
自分の美容院を開く夢を持つアテフェ。家賃や従業員の給与支払いのために、十分な貯蓄が必要だと考えていました。
その資金を得る手段を探し始めた矢先、新型コロナウイルスの危機がイランを襲いました。多くのビジネスが一時的に閉鎖せざるを得ず、雇用も中断を余儀なくされました。
アテフェはまだ幸運でした。自宅で安全に作業できるボタンの繕い、靴を縫うパートタイムの仕事を見つけることができたからです。といっても、一時的な仮の仕事ではわずかな稼ぎにしかならず、家族を養うのがやっとで、貯金をする余裕なんてありませんでした。
イランでは新型コロナウイルスの感染状況が改善に向かい、国内でもビジネスが少しずつ再開し始めました。アテフェは決して諦めることなく、自分の夢に向かって前に進んでいます。「難民は成功できないと言われ続けてきました。でも私は絶対に、素敵な美容師になりたいんです」。
約30年前にアフガニスタンから逃れてきたアテフェの両親。イランで生まれたアテフェには8人のきょうだいがいます。
「私たちが教育を受け、きちんと生計を立て、お互いを助け合って生きていくことが両親の夢でした」と誇らしそうに語るアテフェ。姉のマブーベは経営学士を取得し、数年後には兄のシャヒンが政治学部を卒業しました。
しかし、いざアテフェが大学に入学するという時、資金が底をつきました。
「学費を払う余裕がないと言った時の、父の悲しげな目を今でも覚えています。建設作業員として働きながら、2~3の仕事を掛け持ちしていました。私の学費を稼ぐためにさらに仕事を増やすと言いましたが、高齢なので、これ以上苦労をかけることはできませんでした」と振り返ります。
そんなアテフェがILIAの難民向けの職業訓練コースがあることを偶然知ったのは、その後のことです。ヘアメイクが学べるカリキュラムを見て、「勉強や仕事ができず、自分が無力だとあきらめる前に、どんなことにでも挑戦してみよう」と思いました。
ILIAのムニレ・アレゾマンディ理事は、騒がしいテヘラン郊外にアテフェが登録に来た時の、情熱的なまなざしを覚えていました。「初めて会った時、この少女は必ず成功すると思いました。表情が自信にあふれていましたから」。
2016年以降、ILIAは200人を超える難民とイランの生徒たちを対象に、新しいスキルや能力を身に付ける研修コースを提供してきました。修了生がビジネスを始められるよう、ハサミやくし、ヘアカーラー、ヘアドライヤーなどの道具もUNHCRと連携して提供してきました。
イランでは約100万人が難民として登録されており、その多くはアフガニスタン出身です。イラン政府の包括的な政策により、難民は職に就くことができ、医療や教育などのサービスにアクセスもできます。
働くことができるため、難民は自分で生計を立て、家族を支え、生活を立て直すことができます。技術や能力、起業するために必要なノウハウを身につけておくことは、自主帰還が実現した時、母国に戻ってからの生活再建にも役立ちます。
UNHCRは、カジュアルウェアブランドのユニクロ・ジーユーなどを展開するファーストリテイリングとグローバルパートナーシップを組み、難民が働くために必要なスキルの習得、収入基盤のサポートや、起業支援などを行っています。アテフェが受けた職業訓練もその一環です。
このパートナーシップを通じて、インド、マレーシア、ネパール、イラン、パキスタンでは2016年から2018年の間で、約1万9,000人の難民が恩恵を受けています。
ILIAの職業訓練コースを受けて、アテフェの人生は変わりました。「ただの難民ではない、それ以上になれるチャンスをもらいました。学んだスキルを生かしてひとり立ちして生計を立て、自分のコミュニティにも積極的に貢献することができます」。そうアテフェは語ります。
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