ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにある難民受け入れ施設。お昼時になると、お腹を空かせた人たちが長い列を作ります。辺りにはおいしそうなにおいが漂っています。
「私にとって料理は “アート”。自分が食べたくないものは人に出しませんよ」。そう誇らしげに語るのは難民申請中のイラン人シェフ、マジド(39)。自分と同じ境遇の仲間たちのために、この日はラムカレーをふるまっていました。
約1年前、マジドは安全を求めて息子のムハンマド(14)とイランを離れました。最初はヨーロッパに向かう予定でしたが、経由地のボスニア・ヘルツェゴビナで出会った一人の男性がマジドの心を動かしました。
「私はどこにも行きません。ここが大好きなんです」
その男性はマジドたちを心から歓迎し、温かくもてなしてくれました。人とのつながりの大切さを実感したマジドは予定を変更。ヨーロッパには向かわず、親子でボスニア・ヘルツェゴビナで生活していきたいと考えています。
現在、マジドは仲間たちのためにシェフとしてボランティアをするかたわら、週末には観光地で料理をふるまい生活の足しにしています。「与えたものは必ず自分に返ってくる」。その優しさと情熱は周りからも一目置かれています。
息子のムハンマドはサッカーに夢中です。学校に通いながらサッカーチーム「FKサライェボ」のユースチームに所属し、プロサッカー選手を目指せるほどの実力です。しかし難民申請が通らなければ、公式戦に参加することができません。
マジド親子のように、中東からボスニア・ヘルツェゴビナを経由し、ヨーロッパに向かう人の数は急増しています。2018年1月からすでに1600人が難民申請を行っています。
UNHCRは難民申請の審査体制の整備などの取り組みを強化するために、世界からさらなる支援が必要だと訴えています。