パキスタン人のアビッド(35)は腕の優れたデザイナー。身に危険を感じてトルコに逃れた後、ギリシャのレスボス島に避難したのは2015年のこと。「頼りないゴムボートに50人近くが乗り、今にも沈みそうでした。あれは悪夢です」と当時を振り返ります。
そんなアビッドは今、ドイツで庇護申請者として暮らしながら、再びデザイナーとして活躍しています。彼が作っているのは、なんと、彼自身も乗っていたボートを再利用したカバンです。
発案者は、2015年の冬、ギリシャのヒオス島で難民支援のボランティアをしていたノラとベラ。島のビーチを掃除していた時、難民たちが避難に使ったボートが大量に放置されているのを見て、何かできないかと考えました。
そこで思いついたのが、難民を雇用し、ボートを再利用するビジネスです。ドイツに戻ってNPOミミクリを立ち上げ、デザインや洋服を仕立てた経験のない2人は、オンラインで熟練の職人を募集。そこでアビッドに出会いました。
「アビッドは、ボートのような素材を縫わせたら右に出る者はいないほどのベテラン。私たちのチームに欠かせない存在です」とノラは話します。アビッドも自分が得意とする分野で仕事を得て、生き生きと働いています。
一方で、アビッドにとってボートは、避難した時の記憶を思い出させてしまう存在でもあります。しかし、「そんな物語の持つボートを何か別のものに変えることは感動的で、難民たちを力づける経験にもなります。とても責任のある仕事です」とベラは話します。
ドイツに逃れてきた難民たちが、新たな労働力として、地域に統合できることを示す手本となることを目指しているミミクリ。今後も海を渡って故郷から逃れる難民たちへの理解を広め、新たな地で自立して生活できるよう雇用機会を提供していきたいと考えています。
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