UNHCRはヨルダンのNGOであるJHAS(Jordan Health Aid Society)と共同のもと、シリア難民への保健事業を実施しています。とりわけ脆弱と判断されたシリア難民は、各地のJHASの診療所にて無料で一次医療を受けることができます。2011年にシリアから逃れてきたアフマド(仮名)さんは、息子が頭部に損傷を負っていて自身も腰痛を抱え、イルビッドの診療所を何度も利用しています。多額の借金を抱えるアフマドさんにとって無料で受けられる医療ケアはとてもありがたく、「この診療所がなければどうすればいいか分からなかった」と感謝しています。
ラムサの診療所で一般医として働き、「痛みを抱えていた患者が戻ってきてありがとうと言ってくれるときが嬉しい」と語るモハナド・シェハバト医師は、一次医療の設備には概ね満足しているものの、包括的な医療をより多くの人に提供したいと願っています。2014年11月にヨルダン政府はシリア難民に対する無料の医療サービスを打ち切り、彼らの生活に大きな影響を与えました。現在は特に脆弱と判断された40%弱の人しかJHASによる無料の一次医療を受けることができません。このJHASでのヘルスケアは大きく役立っているものの、他のシリア難民は自分でお金を払ってJHAS以外の一般の公立病院に行かなければなりません。
保健医療はシリア難民にとって不可欠です。長期の紛争により何年にもわたって十分なヘルスケアを受けられず、必要な予防接種を欠いている子供や慢性疾患が悪化している人が多くいます。さらには、紛争の影響を直接受け、頭や胸などに外傷を負ったりトラウマなどの精神病を患っている難民もいます。JHASの診療所では、受付で難民登録書を提示した後、必要に応じてトリアージを受け、一般医や歯科医、曜日ごとの専門医を受診し、最後に薬を処方されます。カルテや処方箋などはコンピューターで管理されており、現金の支払いもなくスムースです。二次・三次医療は、病気や状況ごとに費用の有無が細かく異なっています。
日本政府は2015年、ヨルダンに住むシリア難民のヘルスケアに370万ドル(4.5億円)を拠出しています。UNHCRヨルダン事務所の職員の一人である主席公衆衛生調整官のアン・バートン医師は、「日本からの多額の支援は多くのシリア難民の生活と健康を向上させるのに役立っており、日本の人々に感謝している」と述べています。しかし、保健分野で必要とする予算のうち半分ほどしか確保できていないのが現状です。大量のシリア難民が流入しているヨルダンでは医療にも大きな負担がのしかかっており、さらなる支援が必要です。